2025/03/21

第11部  神殿        4

  テオはママコナに出会ったら質問したいことがいっぱいあった。しかし、今、実際に彼女を目の前にすると、そんな多くの疑問が真っ白になって、何も言葉が思いつかなかった。彼は黙って彼女の後ろについて階段を下って行った。
 時々ママコナは立ち止まり、1分ほどじっとしていることがあった。そんな時の彼女はボウッと白く輝いて見えた。何かしているのだ、とテオは思った。テレパシーで誰かと話しているのか、それとも彼女から何かを発して様子を探っているのか。
 不意にテオは一つ疑問が浮かんで、尋ねた。

「ケツァル少佐は、貴女にとって俺達の名前は意味をなさず、俺が少佐の名前を言っても貴女にはわからない、と言う意味のことを以前に言いましたが・・・」

 ママコナが立ち止まって振り返った。

「もし、私が少佐に出会ったことがなくて、貴方から彼女の名前を聞いても、私には誰だかわからないでしょう。でも私はシータ・ケツァルと会ったことがあるのです。ですから、現世の名前と彼女の”真の名”が結びつきます。」

 彼女は微笑んだ。

「私と普段接している女官や神官、近衛兵も同じです。大統領警護隊の指揮官に任命された人々は皆さん私に挨拶に来られますから、私は存じ上げております。今は貴方もその一人です。」

 そしてちょっと寂しげな表情になった。

「私はインターネットを使いますので、世間で私のことをどの様に言っているかも存じています。私は架空の人物であったり、ただの宗教上のお飾りであったり、正直なところ私にとって良い印象ではない言葉で表現されています。でも、私は選ばれた以上、私の役目を最後までやり遂げる覚悟で生きています。」
「貴女の役目?」
「セルバの民を守り、幸福に生きられるよう祈ることです。」
「貴女自身の幸せは?」

 言ってはいけない質問だ、と思ったが、テオは訊いてしまった。ママコナはニッコリ笑った。

「自己満足ですが、人民が私に感謝する声を聞くことです。 私自身は何もしなくても、彼等の心の支えになっている、それだけで十分です。」

 それは、貴女が本当の世界を知らないからだろう、とテオは思ったが、黙っていた。
 ママコナが前へ向き直った。

「もう少し下ります。疲れたら仰ってください。」


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第11部  神殿        4

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