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2024/03/15

第10部  粛清       23

  アコスタと別れて、テオは路駐していた自分の車に戻った。乗り込もうとした時、一人の男が通りの反対側を走って来るのに気がついた。オフィス街にはそぐわない、薄汚れた感じの人物だった。決してボロを着ているのではないが、何日も同じ服を着たまま、そんな風に見える男が右奥から全速力で走って来て、テオがいる向かい側を走り抜けようとした。何かに追われているのか、背後を振り返り、その為に近くを歩いていた紳士にぶつかりそうになった。

「オイ!」

と怒鳴られ、走って来た男はビクリとしてそっちを振り返り、弾みでよろめいた。

「危ない!」

 思わずテオは叫んだ。同じ叫び声が通りの反対側にいた別の人からも発せられた、と思った。
 走って来た男はよろめいたまま、車道にはみ出した。歩道の段差で転びそうになり、そこへ車が走って来た。
 テオは目を瞑った。嫌なブレーキ音とドンっと何かがぶつかる鈍い音が響いた。

「事故だ!」

 誰かが叫んでいた。テオは目を開き、現場を見た。車は数10メートル向こう迄進んで停車していた。歩道に跳ね飛ばされた男が倒れていた。路面に赤黒い液体が広がり始めた。

「救急車を呼べ!」
「早く救助を!」

 通行人が集まり始め、テオも道を渡って現場へ駆け寄った。男は頭部を強打したのか、頭から血を流していた。目は開いていたが、光が消えていくのがわかった。
 男のそばにかがみ込んだ男性が首を振った。

「駄目だ、救急車は間に合わない。」

 テオは死んだ男が、ひどく田舎者っぽい服装であることに気がついた。それに車に衝突した衝撃で顔面が変形している様に思えたが、どこかで見た顔だとも思った。
 それにしても、酷い事故だ。
 テオは男が走って来た方角へ何気なく視線をやった。停車した車の運転手が真っ青な顔で下りて来るところだったが、その車の向こうに立っている人物が視界に入った。

 純血種の先住民!

 テオは根拠もなくゾッとした。”砂の民”だ。直感だった。慌てて視線を逸らし、犠牲者に目を向けた。

 そうだ、この顔は手配書にあった密猟者だ・・・


2024/03/13

第10部  粛清       22

 「セニョール・アコスタ、貴方はセルバ野生生物保護協会の人々と親しいのでしょうか?」

 テオの質問にアコスタは首を振った。

「親しいとは言えません。私は自然豊かな母国の森が好きですが、保護活動自体に参加しようと言う気持ちになれません。事務系の人間ですから。しかし、会社の金を寄付するのですから、先方の活動内容や経済状態は把握しておかなければなりません。だから時々代表の人達と食事などの付き合いはします。私の上司や同僚も同じでしょう。偶々私がセルバ野生生物保護協会の担当になっているだけです。そのうち誰かと担当を代わるかも知れません。」

 個人的な付き合いは希薄なのだとアコスタは言いたいのだ。だからテオは安心して、核心の質問をぶつけてみた。

「もし・・・あくまでも、もし、の話ですが・・・」

と彼は断った。

「セルバ野生生物保護協会の人間が寄付金を横領していたら、どうされますか?」
「横領ですか?」

 アコスタが笑った。そんな馬鹿な、と言う意味の笑ではなかった。

「もしそんなことをしたら、憲兵隊に通報します。当然ながら寄付は打ち切りですよ。」
「では、寄付金の減額を止めさせるために、彼等がでっち上げの密猟を行っていたら?」
「でっち上げの密猟? ああ、我々に危機感を与えて寄付金減額を止めるってことですか?」

 またアコスタは笑った。

「それは彼等の活動意義にとって、本末転倒でしょう。だが・・・」

 彼は真面目な顔になった。

「植物の保護活動部門は活動成果を上げていないが、必死で行動しています。アブラーン・ムリリョ社長に何度か交渉に来ています。社長も森林保護の重要性は全ての生命の保護の根幹であると考えて、植樹活動に寄付を惜しみません。しかし、ロバートソン博士のネコ科動物の保護活動部門は消極的です。あまり密猟者の摘発もなく、ジャガーなどの取引も昨今は耳にしません。社長は博士に森林部門との統合を提案しているのです。どうせ別々に切り離して考えられるものでもありませんし。」

 ネコ科動物部門と森林部門の統合・・・テオは考えてみた。確かに、どんなに動物を保護しても、その動物が生きる場所がなければ意味がない。森林が豊かなら、動物達はある意味安全だ。

「寄付金は部門毎に出しておられるのですか?」
「セルバ野生生物保護協会へ一括で出します。ただ、どの部門にどんな割合で使われるのか、協会の方から報告があります。」
「ネコ科部門は?」
「以前は50%を使用していましたが、この2、3年は30%に減りました。まぁ、その辺のことは、協会内の力関係によりますから、我が社がとやかく言う筋合いではないです。」
「そうですね・・・」

 テオはもう訊くべきことがないことに気がついた。この会見を持った理由を言っておいた方が良いだろう。

「実は、密猟者に殺害された協会員2名の骨のD N A鑑定をしたのが、俺の研究室でして・・・」

 テオは鑑定のための費用をまだ協会からもらっていないのだと言い訳した。実際そうだった。

「協会の財政状態が悪ければ、あまり高額を請求するのも悪いかな、と思ったのですが、御社を始め数社から寄付をもらっているようなので、一応正規の値段を支払ってくれるよう交渉します。」

 アコスタが微笑んだ。

「大丈夫でしょう、ロバートソン博士は個人的にかなり資産をお持ちだ。寄付金が足りないことはないでしょうが、値切ってくるようなら、彼女の高級車でも売れと言って上げなさい。」

 

2024/03/09

第10部  粛清       21

 「ウーゴ・アコスタです。ロカ・エテルナの財務担当部副主任をしています。」

 男はサングラスを外してテオに目を見せた。サングラスをかけていると、ちょっと映画に出て来る悪党に見えたが、実際の目元は穏やかそうだった。普通のメスティーソのセルバ人だった。
 テオは自己紹介をして、近づいて来たウェイターにコーヒーを注文した。そしてアコスタに向き直った。

「ケサダ教授からお聞きになったと思いますが、セルバ野生生物保護協会へ御社が出されている援助金の額が来年度減額されるとのことですが・・・」

 アコスタが目をぱちくりさせた。

「ケサダ教授からそんなことをお聞きになったのですか?」

 テオは言い方を間違えたことに気がついた。教授に迷惑をかけてはいけない。

「間違えました。ケサダ教授は俺からその話を聞いただけです。俺はセルバ野生生物保護協会の会員の家族から援助金の話を聞きました。」
「ああ・・・それなら納得しました。」

 アコスタが頷いた。

「我が社は道楽で慈善行為をしているのではありません。確実に寄付した金が活かされる事業を援助しているのです。例えば、森を伐採した後に次の木の苗を植える事業、これは将来の地球環境の保全に繋がります。そして我が社が建築する建物の資材確保になります。海岸の清掃、これは綺麗な浜辺を守れば観光客が増え、ホテルの建設などに繋がります。」
「野生生物の保護は繋がりませんか?」
「動物の食物連鎖を無視したり蔑ろにするつもりはありません。しかしセルバ野生生物保護協会はこの数年何の成果も挙げていません。成果と言うのは、動物の生息数を維持することや生息環境を守ることです。しかし彼等が活動していると称する地域では森林伐採の面積が増え、動物が減っている。それに対して彼等は抗議行動をしていないし、政府に働きかけたり、関連事業者に話し合いを持ちかけてもいない。我々の目から見ると、彼等はただ自分達の給料を援助金から捻り出して、働かずに稼いでいるとしか思えないのです。」
「援助金を有効に使っていない、と?」
「その通りです。」
「しかし・・・協会員2名が密猟を止めようとして殺害されたことはご存知ですね?」
「新聞に出ていましたから、知っています。しかし、何故今起きたのですかね?」

 アコスタの奇妙な言葉にテオは引っかかった。

「何故今起きたか・・・ですか?」
「密猟は以前から行われていました。しかし生活出来る様な金は稼げません。今はワシントン条約で厳しく取り締まっていますから、動物を簡単に輸出出来ません。組織的な密猟でもしなければ、割りに合いませんよ。だが、新聞に出ていた密猟者連中は、普通の農夫だったのでしょう? 5人か6人のグループだったそうですが、それならもっと大掛かりに狩りをして、密輸するルートを持っていた筈です。だがそんな話も出ていない。」


2024/03/07

第10部  粛清       20

  テオはセルバ野生生物保護協会の資金の流れを調べることをケツァル少佐にまだ言っていなかった。憲兵隊のコーエン少尉との話し合いで協会に密猟者との繋がりがあるかも知れないと疑いを抱くようになった、と言うことは告げていた。少佐は不愉快そうな顔をした。野生生物の保護に関係する省庁は、少佐が働いているオフィスが置かれている文化・教育省だ。もし協会の職員が不正をおこなっているとしたら、省内の人間にも飛び火するかも知れないと考えた訳だ。省内会議の時に関係部署の人間をそれとなく探ってみると、彼女は言ったが、多分相手の目を見て心を読むのだ、とテオは想像した。一瞬で終わってしまう作業だが、セルバ人は古代それを恐れて他人の目をみることを礼儀作法から外れる行為とした。”ヴェルデ・シエロ”が伝説の神様と言われる時代になっても、その習慣は残り、セルバ人は余程気を許した相手にしか目を見ることを許さない。だが、本物の”ヴェルデ・シエロ”は一瞬で相手の思考を読み取ってしまうのだ。
 ケサダ教授がロカ・エテルナ社の財務担当者に電話をかけてくれた。シエスタの時間に市街地のカフェで会いましょう、と相手は言ってくれた。大学と民間企業のシエスタの時間は微妙にズレがあるので、正確な時刻を確認した。セルバ人は時間にルーズだが、大企業の財務課ともなれば、きちっと時間を守る筈だ。そうでなければ大金を動かす事業を行えない。外国企業との取引もあるに違いないのだ。

「相手は”ティエラ”ですから。」

とケサダ教授がそれとなく教えてくれた。現世で最強の”ヴェルデ・シエロ”が断言するのだから、間違いない。テオは彼に感謝して、昼食後に早速出かけた。
 ロカ・エテルナ社はグラダ・シティで一番お高くとまっているオフィス街にある。通りを歩く人々は皆高そうなスーツを着ていたり、アタッシュケースを持っていたりする。そして忙しなく携帯電話で話をしながら歩いている。たまにラフな格好の人もいるが、多分渉外担当ではない人間だろう。データ管理室だとか、システムエンジニアだ、きっと。
 テオは教壇に立つ時は、それなりに整った身なりをすることにしていた。研究の時はラフで構わないが、「先生」と言う立場で授業を行う場合は、多少威厳を持たせないといけない、と先輩教官達に忠告されたからだ。だから、薄手のジャケットとプレスの効いたコットンパンツでなんとかオフィス街の空気に浮かないで済んだ。
 指定されたカフェはすぐ見つかった。オフィス街の住人達が待ち合わせなどに使うのだろう、ちょっと目立った緑色のテント庇を出していて、観葉植物の植木鉢が店前に出されてあった。歩道は公共の場の筈だが、その店は植木鉢の間にテーブルを置いて、路上を占有していた。
 テオが近くまで行くと、その路上席の一つに席を取っていた男性が彼に向かって手招きした。薄ベージュのスーツを着て、黒いサングラスをかけ、短い口髭を生やした色の浅黒い男だった。

2024/03/06

第10部  粛清       19

  翌日、テオは大学に早めに出勤して、考古学部へ足を向けた。教授連中が何時出て来るのか知らなかったが、彼等は発掘に取り掛かるとなかなか大学に戻って来ない。だから大学に居る時に捕まえたかった。
 ンゲマ准教授は留守だった。学会の発表があるとかで、早い時間に市民ホールの会場へ出かけていた。恐らく南部ジャングルの遺跡群に関する話なのだろう。フランス隊や日本隊も来ていると言う噂だ。日本隊はアンティオワカ遺跡を掘りたがっているが、フランス隊が先に手をつけている。現在は不祥事を起こしたフランス隊が数歩譲って共同発掘しているところだ。ンゲマ准教授はその仲介者で、同時に彼独自に発掘しているカブラロカ遺跡研究の進展報告も兼ねるのだ。カブラロカの監視を担当している大統領警護隊文化保護担当部のアスルも出席する筈だ。
 セルバ国内の古代交易ルートを研究しているケサダ教授は現在本を執筆中なので、あまり外に出ない。だから大学にいる確率が高かった。考古学部の主任教授であるムリリョ博士より、在席している確率は高い。
 テオは学舎の入り口でケサダ教授の携帯に電話を掛けてみた。果たして教授は研究室にいた。訪問しても良いですか、と訊くと、大丈夫だと言ってもらえた。
 ドアをノックして「どうぞ」と声を聞き、テオはドアを開いた。コーヒーの香りが鼻をくすぐった。教授は珍しくインスタントのコーヒーを淹れていた。勧められて、テオももらうことにした。

「仕事に取り掛かる前の、ぼーっとする時間です。」

と教授が微笑んで言った。自宅では4人の娘と生まれて1年も経たない息子の5人の子供のお守りをしているパパだ。のんびり出来るのが職場だと言うのは皮肉な事実だった。

「お仕事に関係ないことでの訪問で恐縮ですが・・・」

 テオはカップのコーヒーを喉に流し、一息ついた。

「アブラーンと連絡を取りたいのです。俺が電話しても秘書が取り次ぐので、本当の要件を話せなくて・・・」

 なんだ、そんなことか、と言いたげに教授が彼を見た。

「最近ブームになっている粛清の件かと思いました。」

 ドキッとするようなことを平然と冗談にして言ってみせた。テオは苦笑した。

「そっちの方も無関係ではありませんが、それがメインなら俺は直接ムリリョ博士に当たっていますよ。」
「確かに・・・」

 教授がニヤッと笑った。テオは簡単に説明した。詳細に語っても、ケサダ教授には関係ない案件だから、意味がない。

「ちょっと遠回りかも知れませんが、お金の流通経路に関して、ロカ・エテルナ社の意見を聞きたいと思っています。だから、アブラーンが忙しければ、カサンドラでも良いのです。」

 カサンドラ・シメネスはムリリョ博士の長女でロカ・エテルナ社の副社長だ。案外金銭的な面で会社を支配しているのは彼女かも知れない。教授は義理の兄と姉のスケジュールを思い出そうとして空中を眺めた。それから、携帯電話を出して、メモを見た。

「カサンドラは昨日からスペインに出張です。お金に関係することで、一族に関係しない内容でしたら、会社の財務担当者を紹介しますが?」

 テオはちょっと考えた。セルバ野生生物保護協会に寄付をするのは会社の事業だ。”ヴェルデ・シエロ”の秘密の事案ではないのだろう。彼は安堵して、教授に頼んだ。

「お願いします。教授が会社の人事にお詳しいとは思いませんでした。」

 するとケサダ教授は可笑しそうに言った。

「ロカ・エテルナ社は考古学や医療研究にもいろいろ援助をしていますから、私もお世話になることがあるのですよ。貴方も遺伝子工学の研究で資金を出してもらったらどうです?」


2024/03/05

第10部  粛清       18

  サバン家を辞して、テオはコーエン少尉を車に乗せて憲兵隊官舎に向かって走った。コーエン少尉は半日だけの休暇を取っていたのだ。明日になればまた通常の勤務に戻る。

「セルバ野生生物保護協会の財政状況を調査します。」

と彼が呟いた。テオは頷いた。彼も気になったが、大学の遺伝子工学の准教授が首を突っ込める分野ではない。彼が出来ることは・・・

「俺はロバートソン博士にもう一度会ってみよう。」
「まだ本題をぶつけないで下さい。」

と少尉が予防線を張った。

「彼等に憲兵隊が探っていると知られたくありません。」
「わかっている。サバンとコロンのD N A鑑定をした人間として、事件のその後の展開が気になっている、と言う理由で近づいてみるだけさ。彼女が犯人とは限らないし、また完全に無実とも決まった訳でもないから。」

 憲兵隊本部には行ったことがあったが、官舎は初めてだった。本部のそばにあるのかと思ったら、車でも5分ばかり離れた場所にあった。隊員達は自転車やバスで通勤していると聞いて、テオは驚いた。

「制服のままで?」
「それが当たり前ですが、何か?」
「あ・・・いや、あまり通勤途中の憲兵を見たことがなかったので・・・」
「各自登庁する時刻は違いますから、点呼の時に揃っていれば問題ないのです。通勤途中に見かけた人は、我々が任務に就いていると思うだけです。」

 ふーん、とテオはなんとなく納得した。2人1組で行動する憲兵や警察官が一人で歩いている時は、正規の勤務外と言うことなのだろうか。だが一旦制服を着たら、彼等の心は任務に就いているのだろう。
 官舎の前に停車すると、少尉がドアに手を掛けた。テオが尋ねた。

「少尉、君の個人名を聞いても良いかな? 俺はテオドール・アルスト・ゴンザレスだ。」

 彼に名乗られて、コーエン少尉も躊躇わずに答えた。

「マルク・コーエンです。」
「ブーカだね?」
「スィ。ですが、少し”ティエラ”の血が混ざっています。」
「だけど、一族の人間だ。」
「スィ。」

 コーエン少尉は真面目な顔に少しだけ微笑みを浮かべ、「ブエナス・ノチェス」と言って車から降りた。

2024/03/04

第10部  粛清       17

 「手がかり?!」

 前のめりになって質問したのはコーエン少尉だった。密猟者グループのボスを特定する手がかりだと言うのか? 
 ティコ・サバンは急がなかった。彼は若い憲兵と遺伝子学者を見た。

「息子は、セルバ野生生物保護協会の中に、密猟者に取り締まり情報を流している人間がいると推測していました。」
「なんだって?!」

と叫んだのはテオだった。セルバ野生生物保護協会は、会員を殺害された被害者ではないのか? オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの合同葬儀に集まった会員達は本当に悲しんでいたし、憤っていた。テオの目にはそう見えた。あの中に、悲しんでいる芝居をしていた人間がいたと言うのか?
 コーエン少尉は冷静に尋ねた。

「内部犯行と言うことですか? 保護協会が密猟者に情報を流して、何か得るものがあったのでしょうか?」

 すると長年地区の役場で勤めたと言うティコ・サバンは、元役人の顔で答えた。

「あの手の組織は基本的にボランティア団体です。どこか大企業などと手を結んで募金や寄付金で活動費を賄っています。セルバ野生生物保護協会も例外ではありません。息子は協会に寄付金を出していたのは、ロカ・エテルナ社だと言っていました。」

 え?とテオは内心かすかに動揺してしまった。ロカ・エテルナ社はセルバ共和国の建設業界の中で最大手だ。それに経営者はアブラーン・シメネス・デ・ムリリョ、考古学者ムリリョ博士の実の長男だ。
 ティコ・サバンは真面目な顔で続けた。

「ロカ・エテルナにすれば、企業イメージを良い方向にアップする為のパフォーマンスでしょう。しかし、企業の利益を生み出さなければ、寄付金を増額することはありません。逆に経営陣の中で自然保護対策に金を使うのは浪費に過ぎないと言う意見を持つ者もいるでしょう。そして実際にロカ・エテルナ社はセルバ野生生物保護協会に、来年度の寄付金を減額すると言う通知を出して来たのです。息子がアブラーンに失望したと腹を立てていたので、私も覚えています。」
「すると・・・」

 テオは頭を働かせた。

「寄付金を減らされると困る協会は密猟で資金繰りを・・・?」
「それは本末転倒だ。」

とコーエン少尉。

「第一、密猟で得る利益など、協会運営の資金全体から見れば微々たるものでしょう、ドクトル。」
「そうだなぁ・・・」

 テオはふと嫌な考えが頭に浮かんだ。

「まさか、密猟を増やして、危機感を世間に与え、ロカ・エテルナ社に考え直すよう促すつもりだった?」

2024/03/03

第10部  粛清       16

  コーエン少尉がテオを見たので、テオは簡単に名乗ってから、本題に入った。

「セニョール・サバン、貴方はオラシオが行方不明になった後、グラダ大学の考古学教授ムリリョ博士と電話で話をされましたね。」

 サバンがピクリと体を動かした様に見えた。ムリリョ博士との通話は仲介を頼んだ”ティエラ”のンゲマ准教授しか知らないと思ったのだろう。テオはサバンの反応に気がつかなかったふりをして続けた。

「ムリリョ博士はマスケゴ族の族長です。そして大長老の一人でもある。」

 普通のセルバ人が知らない”ヴェルデ・シエロ”の内部事情を言ったので、サバンは勿論のことコーエン少尉もちょっと驚いてテオをまじまじと見た。テオはそれも気づかないふりをした。

「彼はある特殊な技能職を持つ人々とも深いつながりがあります。セニョール・サバン、貴方は息子さんを殺害した犯人グループのことを博士に伝えましたか?」

 コーエン少尉がサバンに向き直った。大統領警護隊ではないが、憲兵も国民から畏怖と尊敬の目で見られている。サバンは先ほどの気を放った人物が目の前の若い憲兵だとわかっていたので、嘘や誤魔化しは効かないと観念したのだろう、渋々ながら頷いた。

「スィ。”アキレスの一味”が息子をどうにかしてしまったらしいと博士に伝えました。」

 何故考古学の博士にそんなことを伝えたのか、サバンは説明しなかった。どうしてムリリョ博士の裏の顔を知っているのかも言わなかった。そしてコーエン少尉の方は、博士の裏の顔に思い当たって一瞬動揺した。しかし憲兵はどうにかその動揺を抑えて、年長者のサバンに気づかれずに済ませた。ここで相手に弱みを見せてはならない。それにケツァル少佐のパートナーである白人のテオは何もかもお見通しの様だ。馬鹿にされたくなかった。
 テオはさらに尋ねた。

「”アキレスの一味”のことをどうしてご存知だったのですか?」

 するとティコ・サバンは部屋の隅へ歩いて行き、そこに置かれていた棚の引き出しから一冊のノートを出した。最近購入したらしいノートで、表紙もまだ綺麗だったが、テオはサバンがそれをめくっている紙面にびっしりと書き込みされているのを見た。

「息子は密猟から野生動物を守る仕事をしていました。プンタ・マナ周辺の森で暗躍する密猟者グループの調査をしていたのです。」
「これがその記録なのですね?」
「ここに犯人と思しき人間数名の名前が書かれています。グループの名前も書いてありました。」

 サバンはノートを憲兵に手渡した。

「密猟者が警察と繋がっているかも知れないと思い、今までこのノートのことは黙っていました。けれど、一族の人間が憲兵にいるのだから、私はこれを貴方に託します。」

 コーエン少尉はパラパラとノートをめくり、大きく頷いた。

「グラシャス、セニョール、捜査に役立てます。読み解いていくとボスの正体もわかるかも知れません。もしや、ボスのことも書かれていませんでしたか?」

 サバンは首を振った。

「ノ、ボスがいるのは確かだ、と書いていますが、名前はわからない様でした。でも手がかりはあると、最後に書いてあったのです。」


第10部  粛清       15

 「エンリケ・テナンはジャガーを撃ち殺した時に、ジャガーが人間になるところを目撃してしまったでしょう? ”砂の民”はそれを言い広められるのを阻止しようとしている・・・」

 テオが言いかけると、コーエン少尉は「違います」と遮った。

「今の時代、誰もそんなことを信じたりしません。セルバの国民ですら信じませんよ。」
「では、”砂の民”が密猟者を粛清しているのは・・・」
「1番の理由は、神聖なジャガーを撃ったことへの天罰だと国民に見せつけているのです。森を荒らすと後悔するぞと警告しているのです。そして2番目は・・・」
「一族から密猟者への報復?」
「そう言うことでしょう。」
「だがどこから”砂の民”は密猟者の情報を得たのか・・・」

 コーエン少尉がクスッと笑った。

「それを訊く為にこれからサバンの父親に会うのでしょう?」
「ああ・・・そうだった・・・」

 テオも苦笑した。
 やがてサバン親子が住んでいた古いアパート群が見えてきた。テオは記憶にある建物の前に駐車した。アパート群はまだ照明が付いている部屋が多かった。そんなに夜遅い訳ではない。
 サバンの家のドアをノックする直前にコーエン少尉が囁いた。

「居留守を使われる前に、一族の人間が来たことを知らせておきます。」

 彼は何も目立った動きをしなかった。恐らく、気を発して、存在を伝えたのだろう。テオがサバン家のドアをノックすると、すぐにドアが開いた。そしてティコ・サバンが現れた。

「こんばんは」

とテオは右手を左胸に当てて挨拶した。コーエン少尉は憲兵らしく敬礼した。ティコ・サバンは軽く頷いて、彼等を中へ案内した。
 誰もいない家だ。オラシオ・サバンの葬儀に出席していた母親と兄弟は別居していると聞いていた。父親は息子が死んだ後、一人でこの部屋に住んでいるのだ。テオはふと養父を思い出した。アントニオ・ゴンザレス署長もテオを拾う前はこんな侘しい寂しい生活だったのだろう。
 狭い居間の椅子を勧め、サバンは立ったまま質問した。

「ご用件は?」


2024/03/02

第10部  粛清       14

  密猟者のグループは「アキレスの一味」と呼ばれているのだ、とコーエン少尉は教えてくれた。2人はティコ・サバンのアパートに向かう車内にいた。テオは他人の家を訪ねるには遅い時刻ではないかと心配したが、憲兵のコーエン少尉には自由時間が余り残されていなかった。

「ドクトル・アルスト」

とコーエン少尉が助手席で話しかけて来た。

「貴方は我々の一族のことを理解してくださっている稀な白人だとお聞きしています。」
「どこまで真の意味で理解出来ているかわからないが・・・」

 テオは苦笑した。

「俺のことを大統領警護隊文化保護担当部の皆が理解してくれているから、俺も努力しているんです。」

 すると、少尉はテオにとって懐かしい名前を出した。

「貴方はビト・バスコ曹長の事件の解決に協力して下さったと聞きました。」
「ああ・・・」

 ビト・バスコ少尉は”ヴェルデ・シエロ”の憲兵だった。一卵性双生児の兄ビダル・バスコ少尉は大統領警護隊で、兄にコンプレックスを抱いていた。その細やかなコンプレックスの為に命を落としてしまった。だがその辺の事情は文化保護担当部と大統領警護隊司令部のごく一部の上官だけの秘密だった筈だ。コーエン少尉はバスコ曹長と親しかったのだろうか。

「少尉、貴方はビト・バスコ曹長と親しかったのですか?」
「ノ、所属していた部隊が違っていたので、顔は互いに知っていましたが、彼が一族の者であったと知ったのは、彼が亡くなった後です。彼と親しかった隊員が、彼と瓜二つの男が大統領警護隊の制服を着て街を歩いていたと噂を広めたのです。皆驚きましたが、それは彼が双子だったと知ったからで、私が驚いた理由とは違いました。」
「貴方はバスコが一族の一人だったと知ったから驚いたのですね。」
「スィ、肌が黒い一族の人間がいると聞いていましたが、身近にいたなんてね・・・残念です、彼の生前にそれを知っていれば、友達になれたかも知れません。」

 もしそうなっていれば、ビト・バスコ曹長は兄に劣等感を抱かずに、今も生きていたかも知れない。兄の制服を無断で持ち出すことなく、”砂の民”シショカから粛清を受けずに済んだかも知れないのだ。

「コーエン少尉、貴方は”砂の民”が密猟者達を闇に葬っていくことをどう思われますか?」

 テオの質問に、憲兵ははっきりと答えた。

「法律で裁ける犯罪者は、あんな殺し方をせずに捕まえて法の下で処罰するべきです。その為に憲兵隊や司法警察があるのですから。」


2024/03/01

第10部  粛清       13

  コーエン少尉の報告は続いた。

「エンリケ・テナンは誰が死体を焼くことを提案したか、誰が穴を掘ったか、誰が火をつけたか、そう言う細かなことは言いませんでした。恐らく連中は計画的に行動したのではなく、目の前で起きた殺人、或いは神殺しに恐怖して恐慌状態に陥っていたに違いありません。」

 テオはぼんやり思った。エンリケ・テナンがそんなにペラペラ喋ったのだろうか。コーエン少尉が”操心”で喋らせたのではないのか。兎に角、報告の内容に嘘はないのだろう。ケツァル少佐は何も質問せずに聞いていた。

「サバンを殺害して埋めた後、彼等は素知らぬ顔で生活を続けました。ボスには神殺しの報告をしなかった、とテナンは言っています。言っても信じてもらえないだろうし、神を殺したと言えば、ボスから処罰を受ける心配もあったのです。だが、恐怖心が消えた訳ではありませんでした。だから、次にイスマエル・コロンがサバンの行方を探して現れた時、先に述べたキントーと言う男がコロンを案内して森に誘導しました。テナン達は森で待ち伏せ、コロンを殺害しました。コロンはサバン殺害の手がかりを何も得ないまま、いきなり殺されてしまったのです。」
「酷い・・・」

と少佐が初めて呟いた。イスマエル・コロンが何か犯罪の形跡を見つけて、それが理由で殺されたと言うなら、まだ話はわかる。しかし、コロンは何も見付けなかった。森に連れて行かれ、そこでいきなり殺されたのだ。
 
「誰も反対しなかったんだな?」

とテオも確認のために尋ねた。コーエン少尉は首を振った。

「テナンはその点について何も言いませんでした。もう暗黙の了解でグラダ・シティから来るセルバ野生生物保護協会の人間を殺すと決めていたようです。」
「それはボスの指図だったのですか?」
「私も念を押して訊きましたが、ボスの指示を仰いだ感じはありませんでした。」
「コロンの遺体をあんな無残な姿にしたのは・・・」
「密猟した動物の解体と同じで、出来るだけ犯罪の痕跡を消そうとした様ですね。動物や虫に食わせて消してしまおうと・・・」

 少尉は、ハッと吐き捨てるような息を出した。

「だから連中をいち早く発見した”砂”の連中が、幻影を見せつけたに違いありません。サバンとコロンの幽霊を・・・」
「それにしても、彼等が密猟者を見つけ出したのは、早過ぎると思いませんでしたか?」

とケツァル少佐。コーエン少尉とテオは彼女を見た。

「・・・と言うと?」
「誰かが密告したと?」
「まだ推測を話す段階でもありません。しかし・・・」

 ケツァル少佐は視線を天井に向けた。

「ある方面から、サバンの父親が”砂の民”に粛清を依頼したらしいと言う情報を頂いています。」

 ンゲマ准教授やケサダ教授達からの情報だ。テオも思い出した。サバンの父親が犯人を知っていたのだろうか? しかし彼がどうして・・・?
 テオは少佐に言った。

「サバンの父親にもう一度会ってみたい。白人の俺一人では何も語ってくれないだろう。誰か同行してくれないか?」

 少佐が名乗り出てくれるかと思ったが、彼女は憲兵の方を見た。

「少尉、貴方にお願い出来ますか?」


2024/02/29

第10部  粛清       12

  憲兵隊のコーエン少尉は、密猟者の自供を報告していた。

「テナンは腰を抜かしたそうです。目の前で何が起きたか理解できなかったらしく・・・」
「そうだろうな・・・」

とテオは頷いた。誰だって、撃ち殺したジャガーが人間に変化したら、肝を潰す。逃げ出すかも知れない。
 しかし密猟者達は逃げなかった。

「誰かが、『”ヴェルデ・シエロ”だ』と言うのを聞いたとテナンは言いました。」
「彼等は信じたのですか?」
「テナンと一緒にジャガーが人間になるのを目撃したのは、もう一人、キントーと言う男でした。この男は、ミーヤの教会裏の森で首を括りました。」
「すると残りの密猟者達は・・・」

 コーエン少尉が首を振った。

「連中は見ていなかった、とテナンは言っています。銃声を聞いて現場に集まって来て、サバンが死んでいるのを見ただけだと。」
「サバンは当然裸だったでしょう。」
「スィ。全裸だった筈です。森の中で全裸のインディヘナが死んでいる、その光景を残りの4人は見たのです。」
「裸であることを疑問に思わなかった?」
「そこまでは分かりません。ただ、仲間でない人間を殺してしまった、それだけは理解したのです。だから、連中は殺人の証拠隠滅を図り、サバンの遺体を焼きました。死体をそのまま埋めたのでは、後で動物が掘り返しますからね。」

 テオは聞いているだけで気分が悪くなった。犯罪の話はいつ聞いても胸が悪くなる。

2024/02/28

第10部  粛清       11

  憲兵隊のコーエン少尉がケツァル少佐とテオが住む西サン・ペドロ通りの高級集合住宅に現れたのは、夕食が始まる前だった。地上階の防犯カメラ前で、”ヴェルデ・シエロ”の憲兵は礼儀正しく、そして世間に正体を知られないよう、チャイムを鳴らして、マイクに向かって名乗った。少佐が応答し、ドアロックを遠隔操作で解除した。コーエン少尉は建物の中に入り、エレベーターではなく階段を使って7階まで上がって来た。”ヴェルデ・シエロ”がエレベーターを嫌うのか、軍人なので用心しているのか、テオにはまだわからなかった。少佐に言われて彼は共用通路に出て、少尉を迎えると、少佐ではなく彼の居住スペースに少尉を招き入れた。
 少佐が家政婦のカーラに午後8時迄は待つように、それ以降は帰宅して良いと言いつけて、テオのスペースにやって来た。
 テオの側のキッチンにも小さな冷蔵庫があり、テオはそこからミネラルウォーターの瓶を出した。簡素なリビングの質素な安楽椅子に少尉を座らせ、少佐とテオはソファに並んで座った。

「テナンの自供内容の報告です。」

とコーエン少尉が言った。彼は憲兵で、大統領警護隊に報告する義務はない筈だが、密猟者を最初に見つけたのは大統領警護隊で、そこから任務を引き継いだ形になっていたので、コーエン少尉は筋を通そうとしていた。

「密猟者のグループは実行隊が6人でした。そのうち3名は既に死亡。テナンが勾留中です。残りの2名は、テナンが言うにはまだプンタ・マナ近辺に潜伏しているだろうとのことでしたが、司法警察がグラダ・シティで1名を見かけたとの情報を得て捜査しています。最後の1名はまだ不明。」
「テナンは何と言っていますか?」

 それが重要だ。彼等密猟者は、何を見たのか。
 コーエン少尉が息を深く吸って吐いた。

「彼等は、ボスから指図をもらい、猟を暫く控えるつもりで、キャンプの撤収をしていたそうです。セルバ野生生物保護協会の会員が彼等の居場所を特定したらしく、捕まる前に隠れるつもりだったのです。だが、その作業中に、1頭のジャガーが現れました。密猟者達は森の中では保身用に常に銃を発砲出来る状態で所持しています。ジャガーが威嚇して吠えた瞬間、テナンは咄嗟に自分の銃を発射したと言っていました。」

 テオも少佐も黙っていた。何が起きたのか想像出来た。しかし彼等は口を挟まなかった。コーエン少尉が続けた。

「テナンが撃った弾丸はジャガーの額を撃ち抜いたそうです。ジャガーはその場に倒れ、人間になった、と・・・」

2024/02/26

第10部  粛清       10

  テオとケツァル少佐は喪服ではなく、地味なスーツ姿と簡素な制服姿だった。葬儀の正装ではない。親族でなく友人でもないから、軽い服装で故人を見送った。墓地までついて行ったが、埋葬には参加せずに離れた場所で見ていた。

「ロバートソン博士は、サバンが先に行方不明になって、彼を探しに行ったコロンも消息を絶ったと、貴方に言ったのですよね?」

と不意にケツァル少佐が囁いた。テオは墓穴に土を投げ入れる人々に気を取られていたので、彼女の言葉を聞き逃し、もう一度繰り返してくれと頼んだ。少佐は言葉を追加して言った。

「ロバートソン博士は、サバンが先に行方不明になって、彼を探しに行ったコロンも消息を絶ったと、貴方に言ったそうですが、あれほど憔悴する程サバンを想っていたなら、コロンが言い出す前に彼女がサバンを探す手配をした筈です。或いはコロンを想っていたなら、彼一人でサバン捜索をさせなかったでしょう。」
「彼女の憔悴は一度に仲間を2人酷い形で失ったからだろう?」
「そうでしょうか?」

 少佐はちょっと冷ややかな目でセルバ野生生物保護協会の人々を見た。

「博士以外の協会員達はショックを受けていますが、彼女ほど打ちのめされているように見えませんよ。」
「個人の心の中がどんな状態なのか、俺達にはわからないさ。」

 テオは少佐が何を考えているのだろうと気になったが、彼自身には些細なことに思えたので、その日の夕方にはすっかり忘れてしまった。

2024/02/25

第10部  粛清       9

  テオはシショカが建築工学の教授を訪ねたと聞いた時、ちょっと不安になった。建築工学の先生達とはあまり交流がなかったが、誰かがシショカに粛清対象と見做されたのではないかと心配した。しかし2日経っても特に変わったことは起こらず、大学にいる”ヴェルデ・シエロ”達にも動きはなかった。
 大統領警護隊文化保護担当部は平常通りの業務を続け、手配中の密猟者も今のところ無事なのかニュースになっていなかった。
 オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの遺族は遺体の一部を返還され、葬儀を済ませた。”ヴェルデ・シエロ”も普段は一般のセルバ国民として暮らしている。サバンの葬儀はコロンと合同でカトリック式で教会が執り行った。
 友人ではなかったが、テオはケツァル少佐と一緒に葬儀に参列して、死者を送った。セルバ野生生物保護協会の会員達が大勢出席していた。テオの耳に彼等のヒソヒソ話が聞こえてきた。

「犯人が自殺したらしい。」
「法の裁きを待てなかったらしいね。」
「誰かが神々に復讐を依頼したって噂だ。」
「それはもしかして、サバンの家族か?」
「おいおい、憶測でものを言うな。失礼だぞ。」
「サバン家が復讐を望んだとしても、私は反対しないわ。密猟者がしたことは酷すぎる。」
「憲兵隊に逮捕された男は、仲間のことを何か喋ったのか?」
「わかりません。憲兵隊は取調べの内容を公開しませんから。」
「主犯が誰かもわからないのだろうか?」

 ケツァル少佐がテオに囁いた。

「ロバートソン博士の嘆き方は尋常ではないですね。」

 言われて、テオは協会のネコ科研究の代表者を見た。フローレンス・エルザ・ロバートソンのやつれ方は確かに酷かった。すっかり憔悴し切った表情で、他の協会員に支えられて歩いている感じだ。
 少佐は滅多に憶測を語らないのだが、この時はテオに感じたことをそのまま告げた。

「彼女はサバンかコロンを個人的に愛していたのではないでしょうか。」

 テオはそっと遺族席を見た。コロンには妻子がいた。幼い子供2人を連れた妻が親族に守られて座っていた。サバンは独身だった。テオも面会した父親と、離れて暮らしていた母親と兄弟が来ていた。
 テオは参列者全体を見回して見た。殆どが協会関係者と故人の友人だと思われた。

 ここに密猟者が懺悔の気持ちで来ていることはないだろう。粛清者も来ていない。


 

2024/02/23

第10部  粛清       8

 「建設省のマスケゴ」と一族の人々から呼ばれる彼は、その日彼が奉仕している建設大臣が考えている公共事業に反対している大学教授を訪ねた。ダムの構造など説明されても彼は設計技師でも建築家でもないから理解出来ない。ただ教授が反対する本当の真意を探ることが目的だった。大臣の政敵の息がかかっていないか、確認に行ったのだ。
 途中、ちょっとした出来心でキャンパス内のカフェに立ち寄った。大学で屯する”出来損ない”の学生達がどれほどいるのか、見物してみよう、ただそれだけの軽い気持ちだった。しかし彼のそんな行動を疎ましく思う男がいた。
 マスケゴ族の現族長のファルゴ・デ・ムリリョの娘婿だ。挨拶の声を掛けて来ただけだったが、それが彼に対して心理的な圧を掛けてきた。己の方がお前より強いのだ、と空気を介して伝えてきた。2度目だった。多くを語らずに、雰囲気だけで彼を屈服させてしまえる、そんな気の強さをムリリョの娘婿は持っていた。

 あいつは本当にマスケゴなのか?

 彼は心の底で疑問を抱いていた。気の波長が彼の部族の人間と微妙に異なっている。時にはそれを完全に感じさせない。実際、大学のカフェでも、あの男が声を掛けて来る迄、彼は相手がすぐそばへ来ていることに気づけなかった。完璧に成長して能力の使い方をマスターしたブーカ族やサスコシ族の様だ。否、あの気の強さは穏やかなブーカや用心深いサスコシと違う気がする。では、オクターリャ族か? 時の流れの中に身を隠し、滅多に現世に現れない幻の部族なのか? しかし彼はオクターリャ族を一人知っている。まだ若造だが、能力の使い方は手練れだ。そして、気の波長は、ムリリョの娘婿とは異なる。

 部族ミックスなのか?

 それなら納得はいく。しかし、ファルゴ・デ・ムリリョは純血至上主義者だ。実子の2人の息子と年上の娘はいずれも同部族の純血種と婚姻している。末娘だけに異部族のミックスの男との婚姻を許したのか?
 ムリリョはあの男を子供の時から養ってきた。何処であの男を拾って来たのか? あの男の親の身元を知っているのか?
 悩んでいるうちに彼は本来の仕事を危うく忘れそうになり、慌てて建築工学部に向かったのだった。
 大学教授の話は退屈だったが、純粋に教授が地層や地質を調査してモデル実験もして、砂防ダムの建設位置や工法に疑問を抱いていることを知った。そして面倒なことに、彼は大臣の考えよりも大学教授の意見の方が正しいと思ってしまった。ダムの下流に被害を与えることにならないが、建設費用が膨大な国費の浪費になる。

 大臣の考えを改めさせなければ、あの男、イグレシアスは国に害をもたらす存在となる。

 雇い主をどう説得しようかと考えていたので、密猟者の粛清のためにプンタ・マナから来た同業者を見かけた時、彼はそんな些細な事件の粛清などどうでも良いと思った。だから、縄張り荒らしを見逃した。
 彼は今、国益の為に長年使えた主人を粛清せねばならぬかも知れない、と思い始めていた。

 

2024/02/21

第10部  粛清       7

 「見ない顔だな。」

と一族の言葉で話しかけられ、エクはぎくりとして立ち止まってしまった。夕刻の繁華街だった。逃がしてしまった標的が走り去った方向で獲物を探していたのだ。宛てはないが、田舎者が立ち寄りそうな場所は見当がついた。お洒落なレストランやバルには行くまい。しかし裏町にも行かないだろう。裏町には、その土地の”ティエラ”のグループが縄張りを持っている。見かけない田舎者が迷い込んだら、すぐにカモにされる。標的は只の”ティエラ”だ。身を守る術もないだろう。考えてからエクは思い直した。田舎者だから、都会の裏町の掟を知らずに入り込む可能性もあるじゃないか。身を隠すのに都合が良いとか、田舎の知り合いで早くに都会に出た人間を頼って行くとか。
 そう考えて方向を変えて歩き出して直ぐだった。
 声をかけた人間が背後に近づいて来た。気配を殆ど感じ取れないが、同族だ。ブーカ族やサスコシ族の様にこれみよがしに気を微量に発散させて存在を主張したりしない。エクは囁いた。

「マスケゴか?」
「否定しない。」

と相手は言った。エクは振り返ろうかと思ったが、止めた。相手の顔を見ない方が良い。”砂の民”同士なら尚更だ。彼は言った。

「プンタ・マナから来た。狩りの最中だ。君の領分を侵したのなら、謝る。」
「構わない。」

と相手は言った。

「私はその狩りに参加していない。それに私の領分だと言うなら、この国全体になる。」
「そんな・・・」

 そんな大それた発言をするのは首領ぐらいだろうと言いかけて、エクは口をつぐんだ。
首領の配下と言う縛りを持たない一匹狼の”砂の民”もいるのだ、と先輩から聞いたことがあった。そいつらと出会したら、怒らせないように、礼を尽くせ、と。そうすれば仕事の妨害をされずに済む、と。

「仕事が済んだらすぐに帰る。」
「構わない。」

と一匹狼の”砂の民”は言った。

「だが、ここはママコナのお膝元だ。緑の鳥には気をつけろ。彼等は法律を大事にするからな。ご機嫌よう。」

 そして、エクは相手が遠ざかるのを感じた。
 暑さには慣れているのに、彼は汗びっしょりになっていた。

2024/02/19

第10部  粛清       6

  粛清を行おうとしたが失敗した。邪魔が入ったからだ。
 その”砂の民”はエクと呼ばれていた。彼の実際の職業や立場はこの際はどうでも良いので、記述しない。エクは標的の密猟者を南部からずっと追跡して来た。彼は憲兵隊の手配書を見た訳ではなかった。以前から標的の男が森の中で悪さをしていることを知っていた。法律に触れることだ。しかしそれを罰するのは”砂の民”の仕事ではないから、彼は見逃してきたのだ。しかし一族の人間を殺害したとの情報が耳に入り、首領から粛清の指示が発せられたと知らされ、エクは狩りに出た。
 標的の男は仲間が3人、謎の自殺と謎の喧嘩殺人で命を落としたニュースを知って、怯えた。”ヴェルデ・シエロ”の祟りだと恐れた。エクはすぐには手を出さなかった。標的がもっと怯えることを望んだ。殺害された者が味わったであろう恐怖と屈辱を、仇に味わせたかった。標的の近くに潜み、夜になると幻聴で死者の声を聞かせ、昼間はチラチラと幻覚を見せた。
 標的は思ったよりしぶとかった。犯行現場から遠ざかれば、なんとかなると思ったらしい。標的はヒッチハイクで故郷を離れた。エクは仕方なく移動しなければならなかった。一度は標的を見失ったが、トラック運転手を片っ端から当たり、南部でヒッチハイカーを乗せた車を見つけた。
 標的は都会まで逃れて、少し安心した様だ。身内の家に転がり込んでいた。エクは標的が身内の家族に何の話をしたのか気になった。”ヴェルデ・シエロ”を殺したと喋って、それが身内に信じ込まれたら、粛清の対象が増えてしまう。
 エクは標的の身内の家長と思しき男に近づき、心を盗んでみた。”ヴェルデ・シエロ”にとって簡単な作業だった。目を見れば済むことだ。人間の記憶を読み取る。最近のものだけだから、すぐに済んだ。
 標的は幸いなことに、己が犯した罪は喋っていなかった。身内に、賭博で喧嘩になったので暫く身を隠すと嘘を言って、誤魔化していた。そんなチャチな嘘で相手に信じてもらえる、つまらない人間だ。
 エクは標的を遊ばせるのを切り上げることにした。ちょっと幻覚を見せて交通事故に遭わせれば良い。一番簡単な方法だった。
 標的が乗るバスに彼も乗り込み、標的よりも前の、出口に近い席に座った。斜め後ろの席に座っていた若い男女の会話に注意を向けなかったのが、エクの失敗だった。
 若い男女は”出来損ない”だが、大統領警護隊だった。大巫女ママコナが認めた一族の戦士だ。それに気付いたのは、エクが標的の降車に続いて、幻覚を起こさせる”操心”をかけようとした時だった。

「駄目よ!」

 若い女の声が、彼の術を破った。気を散らしたのではない、”気”を砕いたのだ。そんなことが出来る”出来損ない”は滅多にいない。訓練を受けた大統領警護隊ぐらいなものだ。
 エクは力を収めた。逆らうと、反逆罪に問われかねない。彼はバスを降りて、標的と反対方向へ歩いた。妨害した人間の顔を見たかった。
 可愛らしい若いメスティーソの女と、白人に見える若い男のペアだった。男がエクを見た。エクは思わず睨みつけたが、それ以上のことは控えた。
 再び狩りを続けなければならなかった。

2024/02/18

第10部  粛清       5

  ケツァル少佐と別れたアンドレ・ギャラガ少尉はバス停に向かって走った。セルバ共和国の路線バスの運行は、首都に関して言えば概ね時刻表通りに運んでいる。ギャラガは官舎の夕食の時間に間に合わせたかった。食事をして通信制大学の課題に取り組む時間が欲しかった。

 そうか、官舎を出ればバスで往復する時間も消灯時間も気にしなくて済むんだ。

 ”ヴェルデ・シエロ”は照明がなくても書籍を読める。それでも写真などの色彩は照明の下で見たかったし、大部屋の他の隊員達に気を遣わずに勉強するのも良いだろう。
 バス停に着くと、すぐに大統領府行きのバスがやって来た。首都の中心地で飲食店街から外れるので、夕刻にこの方向のバスに乗る客は多くなかった。列の前の方にデネロス少尉がいるのが見えた。彼女も官舎組だ。女性なので、アスルは同居を誘っていない。彼女が官舎を出る出ないは彼女自身がその気になったら決めるだろう。

 女性も同じ大部屋だ。彼女の方が独立したいんじゃないのかな。

 列が動き出し、並んでいた客が乗り込み始めた。ギャラガは最後尾で、彼が乗り込むとすぐにドアが閉まった。空いている席を探して車内を見ると、デネロスが彼に気づいて手を挙げた。隣席が空いていたのだ。ギャラガは「グラシャス」と言って、先輩の隣に座った。

「明日は今季の発掘許可決定の最終選考日ですね。」

 ギャラガが囁くと、デネロスは頷いた。

「最近選考を通る団体が固定されてきましたね。」
「アンティオワカはまだどこの団体とも決まっていないわ。フランス隊の不祥事の後、閉鎖されたままだから。」
「ミーヤ遺跡の日本隊がそろそろアンティオワカへ希望を申請する頃だと思いましたが、今季は出しませんでしたね。」
「ミーヤの発掘が完全に終わっていないからよ。日本隊は予算の都合上、一度に複数の遺跡を掘ったりしないの。エジプトやアンデスの遺跡と違ってセルバの遺跡にはスポンサーが少ないのよ。」

 2人でボソボソと仕事の話をしていると、出発してから3つ目のバス停が近づいて来た。後ろの座席から立ち上がった気の早い男の客が通路を歩いて2人の横を通り過ぎた。するとデネロスの斜め前の席にいた男も立ち上がった。先に席を立った客の背後について行く。
 ギャラガは不意に空気が少し震えた様な気がした。誰かが”気”を使った? 直後にデネロスが声を出した。

「駄目よ!」

 周囲の乗客が彼女を振り返った。ギャラガも彼女を見た。先に立った男も彼女を振り返った。彼の背後に立った男は振り返らなかった。
 デネロスがギャラガに顔を向けて言った。

「特定の団体に便宜を図ったりしては駄目よ。」

 なんのこと? とギャラガは一瞬ポカンとして先輩少尉を見返した。デネロスが”心話”で事情を説明した。

ーー誰かが”操心”を使おうとしたから止めた。
ーーもしかして、あの前に立っている男ですか?
ーー多分。標的はその前にいる男。

 ミックスで白人の血が混ざっていてもマハルダ・デネロスは”ヴェルデ・シエロ”で2番目に強い部族ブーカの娘だ。そしてギャラガが最強の部族と呼ばれたグラダ族だ。2人はブーカやグラダより弱い力を持つ部族が強力な力を使えば、察知することが出来た。
 バスが停車した。最初に立った客が降車し、バスから出た途端に走り出した。後から立った客も降りたが、追いかけずに反対方向へ歩き出した。
 バスが動き出した。ギャラガは歩道を歩く男がバスの窓越しにこちらを睨みつけるのを見た。純血種の”ヴェルデ・シエロ”だ。

ーー”砂の民”じゃないですか?
ーーそうだとしたら、逃げた方は密猟者ね。

 

2024/02/17

第10部  粛清       4

  その日の夕方、勤務を終えて庁舎から外へ出たケツァル少佐は、アンドレ・ギャラガ少尉が階段の下で彼女を待っていたので、少し驚いた。夕食を共にする約束をしていなかったし、仕事中彼から何も意思表示がなかったので、部下が待っていると予想していなかった。

「少しお時間を頂けますか?」

とギャラガが遠慮勝ちに声を掛けてきた。彼女は他の部下達が既に銘々帰宅にかかっていることを確認した。これはギャラガ単独の誘いだ。彼女は無言で頷くと、カフェ・デ・オラスを顎で指した。

「そこで良いですか?」
「スィ。」

 2人はカフェに入った。夕食時間までにはまだ早く、お茶の時間はとっくに過ぎている。カフェはそろそろバルが開くのを待つ客が増える時間だった。テーブルに着くと、少佐がコーヒーを2人前注文した。部下の希望は聞かなかった。ギャラガも特に希望を言わなかった。

「それで?」

と少佐が声をかけた。ギャラガは率直に相談を始めた。

「クワコ中尉が、私に官舎を出てマカレオ通りの家で同居しないかと言って下さいました。」

 少佐が尋ねた。

「何か問題でもあるのですか?」

 ギャラガは躊躇った。

「私は普通の家に住んだことがありません。」

 少佐は数十秒間彼を見つめ、やがてプッと吹き出した。

「普通の家に住むのが不安なのですか?」
「不安ではありません。」

 ギャラガはちょっと赤くなった。意気地なしと思われたくなった。

「ただ・・・規律がない場所で寝起きする習慣がないので・・・監視業務や出張の時は時間を守ることや、面会する人との約束がありますから、行動の目的があります。官舎の様に食事や入浴や清掃や運動の時間が決まっています・・・」
「アスルと同居すれば、掃除や入浴の順番があるでしょう。炊事は彼が独占するでしょうけど。」
「でも、自由時間があり過ぎるでしょう?」

 ケツァル少佐は目の前の男がまだ本当に自由に生きることを知らないのだと気がついた。幼少期、彼は唯一の肉親だった母親に育児放棄されて一人で物乞いをして生きていた。やがて生きるために(誰かの入れ知恵で)年齢を偽って軍隊に入り、ずっと軍律の下で成長してきた。休暇を与えられても何をして良いのかわからず、一人海岸で海を眺めて過ごすことしか知らなかったのだ。

「自由時間は好きに過ごすものです。貴方は大学の勉強があるでしょう。アスルとサッカーの練習にも行くでしょう。それが官舎の門限や時間割に煩わされることなく出来るのです。」

 彼女はキッパリと言った。

「上からの指図に従って生きるのではなく、自分のことを自分の責任で決めて行動することを学びなさい。そのためにアスルは貴方を誘っているのです。」

 ギャラガはハッとして上官を見た。アスルが同居を提案したのは、彼を教育するため? 彼に独立心を養わせるためなのか? 

「私は・・・」

 ギャラガは言葉を探した。

「これから門限に縛られることなく任務に励むことが許される・・・と考えてよろしいのですか?」

 少佐が天井へ顔を向けた。

「貴方は、仕事のことしか考えられないのですか?」
「今の私には、仕事が一番の大事です。」
「よろしい。」

 少佐は彼に視線を戻して溜め息をついた。

「それなら当分は、好きなだけ仕事をする時間が得られると考えて、官舎の外で暮らしなさい。そのうちに自分でやりたいことが出来る時間を手に入れたのだと思える様になるでしょう。」

 ギャラガが座ったまま敬礼した。アスルの提案を受け入れる意思表示だ。少佐は別の大事なことを思い出した。

「ところで、アスルは現在家主であるテオに家賃を払っています。貴方が同居するなら、家賃を折半するのかどうか、アスルと相談する必要があります。今のままだとテオと契約しているのはアスルだけですからね。」


第11部  紅い水晶     10

  ケツァル少佐がロカ・エテルナ社の駐車場に車を停めたのは午後1時を少し回った頃だった。セルバ人なら昼食を楽しみ、昼寝を考える時間だ。少佐は指示された階の指示された場所に車を置いて、すぐ背後にあった扉の中に入った。ガラス張りの渡り廊下を通り、次の扉を開くと、そこはロカ・エテルナ社...