テオとママコナはいきなり広い空間に出た。石に囲まれた大広間だ。中央に高い祭壇らしきものがあり、それ自体が頂点が平なピラミッドの様だ。壁には彫刻が施され、火が灯されている。テオは微かな空気の流れを頬に感じた。気流があるから、火を焚いても酸欠状態にならないのだ、とぼんやり思った。
「ここは祈りの間です。」
とママコナが説明した。
「暴風などの大きな災害が迫った時、ここで私と能力の強い者達が国土の安全を祈ります。」
テオは以前ハリケーンが接近した時のことを思い出した。大統領警護隊の友人達は一晩中祈っていた。彼等は服を脱いでいた。
テオはそっと訊いてみた。
「祈る時はナワルを使うのですか?」
ママコナが彼を振り返った。
「見たことがあるのですか?」
質問に質問で返したが、テオの質問に「スィ」と答えたも同じだった。テオは首を振った。
「ノ、しかし、以前ハリケーンが来た時、友人達が夜を徹して祈っていました。彼等は服を脱いでいましたので・・・」
ママコナがクスッと笑った。
「変身しなければならないと言うのではないのです。祈りに夢中になって興奮状態になる人が変身してしまう、それが私達の体の厄介な問題です。」
ママコナの口からナワルを「厄介な問題」と表現されて、テオはびっくりした。
「興奮が頂点に達すると、貴女の一族は変身してしまうのですか?」
「その様です。」
ママコナは高い天井を見上げた。テオも見上げると、そこに竜の様な不思議な動物の彫刻があった。天井いっぱいに刻まれている。
「あれは私達の最高神です。」
とママコナは言った。
「名を呼ぶことを許されていません。私達は変身して神に呼びかけるのです、国を守り給え、と。」
それから彼女は視線を壁の対面へ移した。
「これから、向こうに見えている通路へ行きますが、貴方は一族の者ではないので、この広間を横切ることは出来ません。時間がかかりますが、壁伝いに歩きますよ。」
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