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2024/04/14

第10部  罪人        15

  セルバ国立民族博物館の展示室をエクはゆっくりと見物しながら歩いていた。きちんとシャツの上にネクタイを締めた白髪の男性が彼のそばに静かに近づいた。

「そちらは5世紀頃の遺跡から出土した祭祀具です。」

と男性が囁き、それからもっと低い声で彼等だけの言語で告げた。

「女は国外追放になった。実行者の男は明日裁判にかけられる。」
「有り難うございます。」

 エクはガラスケースの中を見たまま答えた。

「私は今夜帰ります。これ以上追うのは私の役目ではありません。」

 そしてスペイン語で言った。

「どんな祈りに使用された物でしょうか?」
「収穫の感謝でしょう。」

 男性は祭具の盃に似た道具を指差した。

「生贄の血を入れた痕跡は見つかりませんでした。これは液体ではなく穀物を入れた物と考えられています。」

 そして古い言葉に切り替えた。

「貴方の労に感謝する。」

 エクは頭を垂れた。そしてゆっくりと顔を上げると、もう博物館の職員はいなかった。
 エクは思った。外務省にも一族の者はいるだろうが、ピューマはいるのだろうか。もしいるのであれば、女を罰して欲しいものだ、と。しかし彼は深追いをしなかった。そして夜行バスに乗る前に何か腹ごしらえをしておこうと考えたのだった。


第10部  罪人        14

 「貴方がロバートソン博士の助命嘆願をしなかったのは意外でした。」

とケツァル少佐が言った。テオは彼女とアパートの彼女のスペースで2人で夕食を取っていた。彼は彼女にムリリョ博士との会談の内容を伝えたところだった。家政婦のカーラはこの日、子供の誕生会とかで仕事を休んでいたので、テオはピザの出前を取ったのだ。大判のピザを3枚、うち2枚は少佐が一人で食べるのだ。

「助命嘆願をする意味がないだろう。」

とテオはコーラをグラスに注ぎ入れながら言った。少佐はビールだ。彼女はあまりコーラを好まない。甘味料が多過ぎると言って、ライムソーダ等の天然果汁をソーダ水で割った方を好んだ。

「彼女はサバンの父親が息子とコロンの行方不明に騒ぎ出したと思い、先手を打って2人の捜索を官憲に依頼した。あの時の彼女の芝居に俺はすっかり騙された。彼女はあの時2人の協会員が既に殺害されていたことを知っていたし、もしかするとサバンは彼女の援助金横領を疑っていることを彼女に察知されて消されたかも知れないんだ。コロンも同様だ。彼女は直接殺害に手を下さなくても、原因を作った張本人だ。彼女と殺人の繋がりを証明する物が何もないし、証人もいないから、俺は悔しい。彼女がお金を全額返したとしても、殺害された2人は戻ってこないんだ。俺は彼女がアメリカに帰って悠々と生き延びることが許せない。本当は”砂の民”に頼んでアメリカまで彼女を追いかけて欲しいくらいだよ。」

 珍しくテオが憤っているので、少佐が憐れみの目で彼を見た。

「彼女がアメリカ人だから、悔しいのですね?」
「俺はもうセルバ人だ。だが、生まれたのはアメリカだからな。少なくとも法と秩序の国であって欲しい。」

 少佐が手を伸ばして彼の手に重ねた。

「彼女は生きていても信用を失くします。 ”砂の民”は標的の命を奪わなくても精神的に追い詰めることが出来ます。きっと帰国した後の彼女の周囲で、彼女の評判が急速に落ちていくことでしょう。」

 それはある意味、残酷な報復方法だった。テオは、だからそれで自分を納得させることにした。

「そうだな・・・もうあの女のことは忘れる。サバンとコロンの冥福だけを祈ることにするよ。」


2024/04/12

第10部  罪人        13

  セルバ外務省とアメリカ合衆国大使館の間で、フローレンス・エルザ・ロバートソン動物学博士の処分について話し合いがあったことは、大統領警護隊文化保護担当部に知らされなかったし、彼等は特に関心もなかった。だがマスコミは外務省の「ある筋」から情報をもらい、ロバートソンの身柄が国外追放になることを報じた。勿論、横領した援助資金を返金してからだ。ロバートソンは家財や高級車、高級ブランドの衣服を売却し、ほとんど無一文で祖国へ帰らねばならなかった。

「彼女と密猟者の繋がりをはっきりと証明する手立てがないのです。」

とテオはムリリョ博士に訴えた。彼は博物館の庭で博士を捕まえ、ベンチに並んで座らせ、強引に話し合いに持ち込んだ。博士はロバートソンの話に無関心だった、あるいは無関心を装っていて、テオの話を煩そうに聴いていた。

「彼女が指示を出していたと思える男は、既に粛清されて死んでしまいました。恐らく、誰も彼から彼女に関する情報を引き出していなかった筈です。だから、彼女が自白しない限り、我々は憶測で行動すべきではありません。」
「我々?」

 ムリリョ博士が白い眉をピクリと動かした。

「お前は儂等の仲間だと言うのか?」

 テオは肯定出来なかったが、否定もしたくなかっった。

「少なくとも、オラシオ・サバンとイスマエル・コロンを殺害した真犯人を突き止めたいと願っている仲間でしょう?」

 博士が溜め息をついた。

「サバンに銃弾を撃ち込んだのは、エンリケ・テナンです。それは本人が認めています。だが彼はジャガーと間違えて人を撃ったと言っている。誰かに命令されてサバンを殺したとは言っていません。コロンはサバンの殺害が密猟者の手によるものだと知って、口封じに殺されたのです。殺人者達とロバートソンの繋がりはどこにも物証として存在しないのです。それにテナンの心を読んでも、きっと彼女のことは出てこないでしょう。ロバートソンもテナンのことは知らないのですから。」

 ムリリョ博士は博物館前の広場で遊ぶ子供達を眺めた。

「確かに、誰も”ヴェルデ・シエロ”の存在に気がついていないし、密猟者の死が連続して起きたのは、死者の呪いだと思っている。」
「だから、”砂の民”がロバートソンを追いかける理由はありません。」

 いきなり博士が振り返ったので、テオはどきりとした。”ヴェルデ・シエロ”は目で見るだけで相手を攻撃出来る。いつも不機嫌な様子の博士に睨まれると、若い”ヴェルデ・シエロ”でさえびくつくのだ。

「あの女から手をひこう。」

と博士が囁いた。

「外国人だし、執拗に追えば、また北の国の関心を引く。だが、あの女がこのセルバの地を再び踏む様なことがあれば、その時は容赦しない。儂がいなくなった後も、その命令は生きるように、伝えておく。良いか?」

 テオは左胸に右手を当てて、承知したことを表した。

2024/04/08

第10部  罪人        12

 「セルバ野生生物保護協会のアメリカ人会員が、活動資金を横領して憲兵隊に逮捕された事件はご存知でしょうか?」

とテオは始めた。ロペス少佐が「スィ」と答えた。テオは続けた。

「アメリカ政府はアメリカ人が国外で罪に問われた場合、確固たる証拠がなければ、冤罪だと主張して釈放を求めて来ます。 幸い、今回の事件は横領された金の流れが憲兵隊によって掴めているので、その恐れはないと思いますが・・・」

 彼は紙に書いた文章をロペス少佐に見せた。そこには、ロバートソン博士が密かに密猟者と繋がっていたらしいこと、その密猟者がオラシオ・サバンを殺害したこと、6人いた密猟者の5人までが”砂の民”によって粛清されたこと、ロバートソンと密猟者の繋がりを示す物的証拠は何も見つかっていないし、直接連絡を取っていた人間は既に粛清されたメンバーの中にいるらしいこと、が書かれていた。
 テオは少佐が文章を最後まで読み終えたと思えたところで言い添えた。

「サバンの父親は息子の日記を持っていまして、そこにはロバートソンが悪いことをしているらしいと書かれていました。密猟者との繋がりを疑っていたのです。そしてサバンの父親は、ムリリョ博士と接触しています。」

 ロペス少佐がピクリと眉を動かした。ムリリョ博士が何者なのか、知らない彼ではなかった。外務省で事務職をしているが、大統領警護隊の司令部所属の少佐なのだ。

「そのアメリカ人の博士は危険な立場にいますね。」

と少佐は囁いた。テオは頷いた。

「推測だけでものを言いたくありませんが、彼女は2人の協会員殺害の黒幕であろうと考えられます。 そしてピューマも同じことを考えていると思うのです。」

 ピューマとは、”砂の民”の隠語だ。少佐が溜め息をついた。

「一族の存在を知らずに罪を犯したとしても、一族の人間に害をなしたのであれば、連中は決して許しはしないでしょう。殺害されたもう一人の男は一般市民ですが、彼を守るのも我々の使命なのです。彼女がどこの国の人間であろうと、このセルバで罪人は無事に生涯を全う出来るものではありません。」

 ロペス少佐はテオを見た。

「彼女をセルバ国内の刑務所に入れるのは簡単ですが、彼女が生きてそこから出られる保障はありません。また、彼女を国外追放しても、狩り人は追って行きます。」
「わかっています。」

 テオは悲しく感じながら同意した。

「ただ、粛清は本当に自然に見えるようにして頂きたい。アメリカ政府が、彼女を自然死と思うような形で・・・犯罪や事故に巻き込まれたのでは、誰かが疑いを持ちます。」

 ロペス少佐は2度目の溜め息をついた。

「私はあの考古学の御大と接点がありません。留学生の手続きは全部彼の弟子のケサダ教授の仕事ですから。しかし、なんとかやってみましょう。ロバートソンを国外追放に持ち込んでみます。外国で死んだら、我が国への疑いは持たれないでしょうから。」


2024/04/06

第10部  罪人        11

  翌日、テオは外務省出向の大統領警護隊シーロ・ロペス少佐に連絡を入れた。一緒にランチをしたいと言うと、ロペス少佐は義理の兄弟となったテオの申し出を断らずに、省庁が多いオフィス街のレストランを指定してくれた。ドレスコードは不要の店だと言われ、テオは失礼がないようシャツの上に薄いジャケットを着用して出かけた。研究室に常備している緊急準正装用だ。学長や学部長の気まぐれで突然食事会に招待された場合に備えての物で、今回はロペス少佐に頼み事があったので、きちんとした服装で行くべきだろうと思ったのだ。
 ジャケットを着て行って正解だった。指定された店はTシャツにジーンズで入れるような店ではなかった。「ラフな服装」の言葉の定義が世間とはちょっと違う。テオは真っ白な制服を着たウェイターに案内され、少佐が予約したテーブルに案内された。ロペス少佐は常連なのだろう、綺麗な花が咲く中庭に面したテラス席だった。そこに着席する間もなく、ロペス少佐も到着した。テオは挨拶した。

「ブエノス・ディアス! 俺が誘ったのに、こんな良い店を予約して頂いて、申し訳ない。」

 ロペス少佐が首を振った。

「ブエノス・ディアス! お気になさらずに。私が職場に近い場所をと我儘でここを選んだのです。さぁ、掛けて。」

 席に着きながら、テオはどんな高い店だろうと不安に思った。しかしメニューを渡されると、案外リーズナブルな値段だったので安心した。微かな彼の表情の変化で彼の心の中を読み取ったのだろう、ロペス少佐が可笑そうに笑った。

「店構えを見て、高級店だと思われたでしょう? 我々は初めての客で厄介な交渉相手の場合、ここへ案内して、メニューを見せずに注文するのです。相手はちょっと萎縮しますね。時には相手の料金も支払って恩を売ります。」
「それは・・・なかなかの外交手腕ですね。」

 テオもやっと緊張がほぐれた。料理を注文してから、テオは電話をかけた際に質問したことをもう一度することにした。一応セルバの礼儀だ。

「アリアナは順調ですか?」
「スィ。そろそろ臨月です。仕事を休ませて家でテレワークですよ。」

 少佐も電話と同じ返答をしてから、本題に入った。

「それで、私に頼みとは?」


2024/04/05

第10部  罪人        10

 「多分、ロバートソンは資金横領で協会から告訴されるでしょうね。」

とロホが夕食の時に言った。その夜、テオは大統領警護隊文化保護担当部の男達だけを、アパートの彼自身のスペースに呼んで食事をした。ケツァル少佐は会議を兼ねた夕食会で文化・教育省のお偉方と出かけて留守だ。マハルダ・デネロスは一緒にアパートへ来たが、スクーリングで出された宿題の論文を考えるので、彼女一人だけ少佐のスペースで食事だ。家政婦のカーラは料理をテオのスペースに運ばなければならず、アスルとテオが手伝った。一番下っ端のアンドレ・ギャラガは酒類を買うので遅れて来た。
 大尉で何も手伝わなかったロホが食事開始の合図をして、男達はビールを飲み、カーラ手作りの美味しい夕食を味わった。料理は全部出されていて、カーラは普段より早く帰宅した。デネロスは一人勉強しながら食べているのだ。

「俺は今でも彼女が密猟の黒幕だなんて信じられない。葬式で本当に泣いている様に見えたんだがな・・・」

 テオは悔しかった。ロバートソン博士とは何回か会ったし、話もした。彼女はサバンやコロンを心から悼んでいる様に見えたのだ。しかし大統領警護隊の友人達は冷めた眼で彼女を見ていた。

「別にあの女がアメリカ人だから、とか、白人だから、って訳じゃない、最初から胡散臭い雰囲気を感じていたんだ。」

とアスルが呟いた。ギャラガも頷いた。

「ああ言う団体はボランティアみたいなものでしょう? 協会員は手弁当であまりお金を持っていない。でも彼女は結構値が張る服を着ていました。Tシャツだってブランドものだったし・・・まぁ、金持ちの道楽でボランティアやってる人もいますけど。」

 テオはそちら方面の知識がないと言うか、無頓着な方なので、己の観察眼の無さに落胆した。

「君等は早い時期から彼女を疑っていたのか?」
「疑うと言うか、あまり信用出来ない人だな、と感じていたんです。」

とロホ。

「兎に角、彼女と密猟者を結ぶ確固たる証拠が出ないと、殺人事件と彼女は結びつけられないな。」
「真相を知る人間は”砂の民”が粛清しちまったし、あの女は絶対に口を割らないだろう。生きてアメリカに帰りたいだろうから。 詐欺容疑なら、刑期も知れている。」

 するとロホが暗い表情になった。

「きっとサバンの父親はそれを許さないだろう。”砂の民”も見逃したくないだろうな。」
「彼女の出所後に粛清するってか?」
「そんな悠長なことはしませんよ、きっと。」

 ロホはセルバの裏の社会の知識を持っている。彼はそうする必要もないのに、声を低くして囁いた。

「ロバートソンが刑務所に入ったら、囚人を動かしますよ。囚人同士の喧嘩で殺人が起きるのは珍しくありませんから。殺されなくても、彼女はきっと酷い目に遭わされます。」

 テオはゾッとした。するとギャラガも心配そうに言った。

「オラシオを実際に殺害したエンリケ・テナンも生きて出所は無理ですね? 動物と間違えて人を撃ったなら、殺人でも刑期はそう長くありません。他の囚人と接する機会も多い筈です。」

 囚人までは守れない。テオは気分が沈んだ。

2024/04/04

第10部  罪人        9

  セルバ野生生物保護協会のネコ科部門総責任者フローレンス・エルザ・ロバートソン動物学博士は、政府やスポンサー企業から出された援助金を、下部保護団体に出資したと帳簿に記載していた。しかし実際はその下部組織ミァウオンカと言う団体は、プンタ・マナのビル内に事務所を置いているだけで、何の活動もしていないことが判明した。活動していないどころか、部屋の管理をしている老人が一人いるだけで、団体員は一人もいない幽霊組織であることが、憲兵隊の捜査で判明した。
 ロバートソンは自分が設立したミァウオンカに援助していると偽り、資金を架空口座に振り込ませた後、自身の口座へ送金する手口で私腹を肥やしていたのだ。
 セルバ野生生物保護協会は今回の不祥事に衝撃を受け、当面の間活動休止を発表し、協会員全員の口座を調べる方針である。
 ロバートソンは横領の罪で取り調べを受けているが、容疑は固まっており、間も無く起訴される見込みである。彼女はアメリカ合衆国の市民権を持っているが、アメリカ大使館は憲兵隊から出された証拠書類を吟味し、彼女の罪状が揺るがないものと判断すれば、セルバ政府に彼女の身柄を拘束する権利があることを認めざるを得ないであろう。
 なお、ロバートソンには、先月発生したセルバ野生生物保護協会の協会員オラシオ・サバン氏とイスマエル・コロン氏が密猟者によって殺害された事件にも何らかの関与が疑われている。
       シエンシア・ディアリア誌 社会部編集長 ベアトリス・レンドイロ

 外国人による税金の詐取は、セルバ社会でちょっとした大事件だった。マスコミはまだ殺人事件とロバートソン博士の関係を確実なものとしていないが、憲兵隊は既にロバートソンがサバンとコロンに不正を知られそうになって密猟者の手で消させたと考えている。それが市井でも噂になって、暇な人間達の世間話の中心になっていた。

「これだけ噂になると、”砂の民”も手を出せませんね。」

とマハルダ・デネロスがテオに囁きかけた。 2人は大学のキャンパスでシエスタのお茶をしていた。デネロスにとっては久しぶりのスクーリングだ。ジャングルでの監視業務やオフィスでの書類仕事から解放されて勉学に励む1日は貴重だった。彼女は提出した言語学のレポートを教授と共に2時間かけて検証し、やっと合格をもらって、一息ついていた。

「先に逮捕された密猟者のエンリケ・テナンはロバートソンの顔も名前も知らないと思うが、コーエン少尉はどうやって2人の関係性を解明するのかな。」

 テオが呟くと、デネロスは首を傾げた。

「それは私達の知ったこっちゃないです。憲兵隊の捜査力の見せ所でしょう。コーエン少尉は世間を納得させなきゃいけませんから、超能力は使えません。」
「そうだな・・・俺達が関与する余地はないもんな・・・」

 テオはちょっと寂しく感じた。もう少し役に立ってみたかったのだが・・・。


2024/03/31

第10部  罪人        8

  憲兵隊に逮捕されたエンリケ・テナンは仲間5人全員が死んだことを知らなかった。少なくともミーヤやプンタ・マナで死んだ3人は呪いで死んだと思っている様だが、残りの2人はまだどこかに隠れているか逃げていると思っていた。そして彼は密猟者グループに指示を出していたボスの存在も正体も知らないと言い張った。

「計画は従兄弟のトーベが立てていた。トーベはまだ逃げている。あいつを捕まえて聞いてくれ!」

 そのトーベ何某は既に死んでいたのだ。グラダ・シティのオフィス街で車に跳ねられて。マルク・コーエン少尉はちょっと考えて、それから新聞社にガセネタを提供した。

ーー密猟者エンリケ・テナンは司法取引でグループに指示を出していた黒幕の正体を語ることを承知したと思われる。

「承知した」と断言していない。新聞社は「思われる」と言う文言を載せることに難色を示したが、憲兵隊に押し切られた。
 その記事をトップに載せた新聞が販売された日の午後、憲兵隊に司法警察から連絡が入った。

ーーセルバ野生生物保護協会のロバートソン博士が荷物をまとめてアパートを引き払った。

 コーエン少尉は直ぐに部下に指示を出した。グラダ・シティ国際空港でロバートソン博士を足止めせよ、と。警察には博士の尾行を指示した。もし博士が陸路や港湾へ向かう様なら直ぐに連絡をくれと。
 逮捕劇はその夜に終了した。フローレンス・エルザ・ロバートソン博士は空港でネットで購入した航空券を提示して搭乗手続きを行なっている最中に憲兵隊に声をかけられた。彼女は同行を請われ、一旦断ったが、セルバ野生生物保護協会の資金横領容疑だと告げられると急に脱力して官憲の指示に従った。
 セルバの憲兵隊は緊急配備以外夜間に働くことをしない。コーエン少尉はロバートソン博士の取り調べを翌朝に行うと決め、彼女を留置場に入れた。ロバートソン博士はアメリカ人で、大使館に連絡してくれと要求した。

「明日の取り調べで貴女に弁護士が必要とわかれば、大使館にも連絡しますよ。」

とコーエン少尉は意地悪く言って、扉を閉めた。

2024/03/29

第10部  罪人        7

  好奇心の強い人間は何処にでもいるもので、テオの遺伝子工学の一番弟子で新学期から講師の仕事をもらったアーロン・カタラーニが、死体の写真を撮影しに憲兵隊グラダ・シティ南部基地に出かけて行った。 ”ヴェルデ・シエロ”とは無関係の殺人事件の死体の身元確認作業なので、テオは、作業を研究室の仕事として、憲兵隊にも生物学部長にも報告しておいた。手間賃は憲兵隊から取れないが、研究の必要経費として多少は出してもらえる。
 作業は翌日の朝から開始した。カタラーニがデジタルカメラからパソコンに写真を落とし、骨格を計算で算出する。顔面は鼻骨以外骨折していなかったのでなんとか使えた。若い研究生達が2人でC Gで肉付けしていった。カタラーニは憲兵隊からもらった手配書のコピーをパソコンに取り込み、復元した顔と比較できるように設定した。

「鼻の部分が欠損しちゃったので完璧と言えませんが、90%の確率で死体と手配書の密猟者は同一人物と言って良いでしょうね。」

 カタラーニはテオに薦められて自分で憲兵隊に電話した。テオは遺伝子鑑定が専門だから、復顔の依頼が増えても困ると思い、仕事の成果を弟子に譲ったのだ。カタラーニは遺伝子学者の卵だが法医学に興味があるので、今回の仕事にノリノリだった。まぁ、彼は何時もテオの仕事を手伝うことにノリノリな若者なのだが。
 密猟者6人のうち4人が”砂の民”に粛清され、1人が粛清から逃れようとして想定外の事件で命を落とした。最後の男は憲兵隊に逮捕され、現在勾留中だ。憲兵隊のコーエン少尉は”砂の民”は法律を犯してまでして官憲が捕らえた囚人を殺しはしないと言った。

「あの人達は、一族を守ることが仕事です。あまり不審な死が続けば、却って良くない結果をもたらすと理解しているでしょう。」

とケツァル少佐も言った。

「捕まっているテナンはジャガーが人間に変化したと言う証言を取り消したそうです。人間をジャガーと見誤って射殺したことに証言を変えました。」
「もっともボスの正体は喋らないし、サバンとコロンの殺害が初めから意図的なものだったのかも言わないんだろ?」
「そうです。もし密猟の元締めが大きな組織と関わりがあれば、”砂の民”とは別の人間がテナンを狙うでしょうね。」


2024/03/28

第10部  罪人        6

 ーー馬鹿なことを言うな!

とアスルが電話の向こうで怒鳴った。大きな声で能力の話が出来るのだから、どこか誰もいない場所にいるのだ。

ーー会ったこともない人間の過去へ跳ぶなんて俺はやらない。第一、そいつがいつどこにいたのかわからないんだろ? そんなの、エネルギーの無駄だ。

 言われてみればその通りで、電話をかけたテオもそばで聞き耳を立てていたギャラガもしょんぼりした。

「殺された男と手配書の男が同一人物なのか判明させるだけなんだがなぁ・・・」

 テオが思わず呟くと、スマートフォンの中のアスルが意地悪い表情で提案した。

ーーそれなら、復顔すりゃいいだろ?
「復顔?」

 テオが繰り返すと、ギャラガの方はゲゲっと声を出した。

「死体の肉を溶かして骨だけにして粘土で肉付けしていく、あの方法ですか?」

 テオもドラマで見たことがあった。既に骨になっているのであれば、それも可能だが、まだ死んだばかりで肉がついている人間の頭部を骨にするのはどうも・・・と思っていると、アスルがテオより科学者らしい意見を口にした。

ーー死体のD N Aか顔写真からC Gで顔を二次元再生したらどうだ? あんたならその程度の技術は使えるだろう?
「ああ!」

 テオは理解した。ギャラガはまだポカンとしている。

「やってみる。貴重な提案を有り難う、アスル!」

 アスルはフンと言って先に電話を切った。
 テオはギャラガを振り返った。

「死体の写真を撮影しに行くよ。どこにあるんだい?」




2024/03/27

第10部  罪人        5

  テオが大学の講義を終えて研究室に戻ると、室内に無断で入っていた客が立ち上がって挨拶した。

「ブエノス・ディアス、ドクトル。勝手にお邪魔しています。」

 敬礼しながら言うので、テオは吹き出した。

「ブエノス・ディアス、アンドレ。君なら構わないけど、他の人だったら俺は大声を出した方が良いだろうな。」

 テオは自分の机の上に書籍や学生から集めた答案用紙などを置いた。テストではなくちょっとした授業内容に関するアンケートを取ったのだ。
 ギャラガ少尉が小瓶を二人の間にある細長いテーブルの上に置いた。このテーブルは学生達が助手を務めるときに使う「何でもテーブル」だ。お茶を飲むにも書類を書くにも使われるので、普段は何も置いていない。
 テオは小瓶の中の不気味な物体を見た。

「肉片に見えるが・・・」
「スィ。死体から切り取った皮膚です。」

 テオが顔を顰めるのも意に介せずに、ギャラガは港で男が密航を企てて船乗りに見つかり、私刑を受けて死んだことを話した。

「・・・それで、手配書の密猟者と同じ場所に痣があったので、ムンギア中尉が文化保護担当部に連絡をくれたのです。ただ、死体の顔が殴られて原型をとどめていると言い難かったので、鑑定して頂こうと持って来た次第で・・・」
「鑑定しようにも、比較する元の遺伝子がないと無理だよ。」

 個体の遺伝子鑑定の原則が未だに周知されていないことをテオは忌々しく感じた。毎日付き合っているギャラガでさえこうなのだ。ギャラガはちょっとがっかりした様な顔をした。

「こいつが宿泊していた場所がわかれば良いんですがね・・・」
「過去を見られる人間がいればな・・・」

 テオはふと思いつき、ギャラガを見た。ギャラガも彼を見た。二人とも同じ人物を思い出したのだ。


2024/03/24

第10部  罪人        4

  ”砂の民”のエクは獲物が2人になったことを考えていた。一人は憲兵隊に囚われ、迂闊に近づけない。憲兵隊にも一族の人間がいるに違いないし、彼が手を出せばその一族の憲兵は腹を立てる筈だ。今のところ捕まった獲物は目撃した内容について喋った様子がない。喋ったのかも知れないが、信じてもらえないのだろう。ジャガーを撃ったら人間になったなんて、信じる方がおかしい。
 最後の男はまだ見つからない。しかしグラダ・シティに来ていることは確かだ。エクの手下が獲物がバスに乗るのを見たし、途中で下車して行くところなどあるだろうか。国内ならどこへ逃げても隠れても”ヴェルデ・シエロ”の呪いは追ってくるのだ。
 エクはふと気がついた。

 グラダ・シティにも港がある。それも外国へ行く大型船がいる港だ・・・

 彼は港湾施設に向かって歩き始めた。もし獲物が貨物船に潜り込んだら厄介だ。密航者はたまにいる。船が一旦大西洋に出て行くと戻ってこない。往復の燃料代がバカにならないから。

 逃してしまえば、俺自身の心の中の汚点になる。

 誰からも評価されない仕事だが、”ヴェルデ・シエロ”は誇り高い民族だ。エクは獲物に逃げられることを恐れた。
 彼は徒歩で港に向かったので、アンドレ・ギャラガ少尉が大統領警護隊の公用車で彼を追い越した時、まだ市街から出ていなかった。
 ギャラガはメキシコ行きの小型貨物船が停泊している埠頭に車を乗り入れた。そこには既に憲兵隊の車が一台と司法警察のパトロールカーが1台停まっていた。ギャラガが車を停めて下車すると、彼が会ったことがある憲兵が近づいて来た。

「お疲れ様です、ギャラガ少尉。」

と憲兵から声をかけて来た。ギャラガは敬礼して応えた。

「そちらこそ、お疲れ様です、ムンギア中尉。」

 ムンギア中尉はグラダ・シティの憲兵隊南部基地に所属する憲兵で、主に海岸地域の治安を担当していたので、海が好きで休日は海岸で過ごすギャラガとは知り合いだった。

「殺人事件だと聞きましたが、文化保護担当部に関わりがあるのですか?」

とギャラガが尋ねると、ムンギア中尉は首を振った。

「ノ、盗掘品に関係はないです。ただ、死人がプンタ・マナの憲兵隊基地から手配書が回って来ていた密猟者と似ているので・・・」

 彼はちょっと言い淀んだ。

「つまり、少尉は最近彼方へ行かれて密猟者が遺跡を荒らした事件を調査されていたと聞いたので・・・」

 ひどく遠回しの言い方だが、ギャラガは聡い男だ。憲兵が言いたいことをなんとなく察した。

「私は密猟者達と面識はありません。でも死人が手配書の写真と似ているかどうか、見てみましょう。」

 中尉がホッとした表情になったのが可笑しかった。大統領警護隊に叱られるかも知れないと不安だったのだ。彼等はシートが掛けられた死体に向かって歩き出した。

「殺人だと聞きましたが?」
「加害者達は殺すつもりはなかったんだと言ってます。よくあることでして、船の中に潜んでいた密航者を船乗り達が見つけて袋叩きにするんですよ。そして海に投げ込む。」
「そして死なせてしまった?」
「スィ。」

 警察官が場所を開けてシートの前に憲兵と大統領警護隊を案内した。別の警察官がシートを捲った。死体の顔は殴られて腫れ上がり、ギャラガの知らない男に見えた。

「顔を殴らないで欲しかった。」

とギャラガが呟くと、ムンギア中尉も同意した。

「左頬の痣が手配書の写真の男と同じなんです。だから、そうじゃないかな・・・と。」

 ギャラガは溜息をついた。

「私にはなんとも言えません。友人のドクトルにD N A鑑定を頼みましょうか。」

 

2024/03/20

第10部  罪人        3

  セルバ野生生物保護協会のロバートソン博士を「嘘泣き女」呼ばわりしたケツァル少佐にテオはちょっと驚いた。

「・・・だけど、君は彼女がサバンかコロンのどちらかを愛していたんじゃないか、って言ったじゃないか。」
「言いました。でも・・・」

 少佐は肩をすくめた。

「あの時は彼女が酷く憔悴して見えたので、そう思っただけです。彼女は埋葬の時、ハンカチを目元に当てていましたが、泣いていませんでした。」
「目を赤く腫らしていたぞ?」

とテオが指摘すると、彼女は首を振った。

「寝不足だったのではありませんか?」
「はぁ?」
「密猟者達が次々と死んだり捕まったりで、次は自分の番ではないかと不安なのでしょう。」
「まさか・・・」

 テオは他の仲間を見た。ロホが肩をすくめて見せた。

「あの博士は結構気が強い女性の様です。しかし、死んだ協会員に外部の人が触れると、急に涙ぐんだり心配だと饒舌になる様ですね。」
「お芝居ね。」

とデネロスが決めつけた。

「セルバ野生生物保護協会って、ボランティア組織みたいなもので、お役所や普通の会社みたいに協会員が毎日出勤して顔を合わせる訳ではないでしょう? 私の大学の学友にも協会に登録している人がいますが、全然事務所に顔を出さない人もいるし、お給料も交通費程度しか出ないって言ってました。だから、ロカ・エテルナ社が援助資金を出しているって、今聞いて、私は変だなと思っているんですけどぉ?」
「それじゃ、援助金は何に使われているんだ?」

とアスル。

「動物の餌代か?」

2024/03/19

第10部  罪人        2

 「テオが憲兵隊のマルク・コーエン少尉との会談でセルバ野生生物保護協会の資金の流れに疑いを持った様ですが・・・」

 少佐が語りかけたので、テオは片手を揚げて彼女を制し、自分で話し始めた。

「殺害されたオラシオ・サバンの父親にコーエン少尉と共に面会したんだ。その時、父親が息子のノートを見せてくれた。オラシオ・サバンは彼が働いていた協会に密猟者と繋がりを持つ人間がいると疑っていた。そのノートはコーエン少尉が持ち帰って彼なりに分析している筈だ。コーエン少尉と俺は、本来動物を保護しなきゃならないセルバ野生生物保護協会の人間が密猟に加担する理由を、考えた。そして協会の資金の流れがどうなっているのか知るべきだと思った。オラシオ・サバンは父親に協会に資金援助している企業があって、その主力たる企業がロカ・エテルナ社だと言った。俺達はロカ・エテルナ社が動物の密猟の黒幕とは思っていない。コーエン少尉だってそれくらいわかっている。問題は、大きな会社から援助してもらう資金がどんな使われ方をしているか、だ。コーエン少尉はセルバ野生生物保護協会の財政状況を調べると言った。勿論、それは憲兵隊の仕事だ。だから、俺はロカ・エテルナ社にセルバ野生生物保護協会とどんな利益関係があるのか知ろうと思い、ケサダ教授にアブラーン・シメネスに連絡をつけて欲しいと頼んだ。」

 大統領警護隊の友人達がちょっと驚いた様子を見せた。顔見知りだと言っても、ロカ・エテルナ社は大企業でそこの社長となると、いきなりアポなしでぶつかっても会ってもらえない。ケサダ教授は社長と義理の兄弟だが、義弟の紹介と言えどもアブラーン・シメネスはすぐに時間を割ける程暇ではない。ギャラガが尋ねた。

「アブラーン・シメネスは会ってくれたんですか?」
「ノ、俺はアブラーンが無理ならカサンドラに会いたいと言ったんだ。すると教授は彼女が現在スペインに出張中で留守だと教えてくれた。しかし、慈善事業や学究施設各所に援助をする部署があって、そこのセルバ野生生物保護協会担当の人に連絡を取ってくれたんだ。」

 デネロスがニヤリと笑った。

「やっぱり教授は頼りになりますね!」

 ケツァル少佐が肩をすくめ、ロホとアスルとギャラガは彼女に同意した。
 テオは話を進めた。

「俺は今日、ロカ・エテルナ社の財務部のアコスタと言う人と会った。アコスタはセルバ野生生物保護協会が密猟者と繋がっているとは考えていなかったが、協会への資金援助が減額される話を教えてくれた。アブラーン・ムリリョ社長は協会の植樹活動などには積極的に協力しているが、ネコ科部門はこの数年目だった成績を揚げておらず、森の保護がひいては動物保護に繋がると言う観点から、協会にネコ科部門を森林部門に合併吸収させる提案をしていたようだ。」
「すると・・・」

 ロホが声を発したので、テオは口を閉じた。ロホは割り込んでしまったことを謝罪してから、考えを述べた。

「ネコ科部門は資金減額も森林部門への吸収も嫌だと思っている。だから、密猟を増やして危機感を社会に与え、資金減額を止めさせようとした・・・」

 テオは頷いた。少佐が不愉快そうな顔をした。

「では、あの嘘泣き女を調べるのですね?」
「嘘泣き女?」

 テオの怪訝な表情を見て、少佐は言った。

「オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの葬式の時、ロバートソンは泣くふりをしていたではありませんか。」

2024/03/18

第10部  罪人        1

  ケツァル少佐のアパートのリビングで、大統領警護隊文化保護担当部の面々とテオは静かに時を過ごしていた。その日の夕食はカーラの手料理だった。とても美味しかったが、みんな口数が少なく、家政婦を心配させてしまった。

「いつもと同じで、とても美味しいですよ、カーラ。」

と少佐が珍しく気を遣った。

「ただ、仕事で今日はみんな疲れているのです。」

 そしていつもと同じように、アスルがカーラの帰宅準備を手伝い、バス停まで送って行った。
 少佐が酒類を出してきて、それぞれに配った。ロホは白ワイン、テオとアスルはビール、ギャラガは水で割ったブランデー、デネロスは赤ワイン、そして少佐はストレートのブランデー。

「”砂の民”は着実に仕事をしていますね。」

とロホが呟いた。テオは頷いた。

「きっとプンタ・マナから密猟者を追跡して来たんだ。俺はグラダ・シティの”砂の民”全部を知っている訳じゃないが、いくら大都会だからと言って、一つの都市にそう何人も”砂の民”がいる筈もないだろう?」

 ギャラガが同意した。

「ムリリョ博士は動いていらっしゃらないし、建設省のマスケゴは無関心でしょう? 私も他のピューマを知りませんが、3人もこの街に住んでいるとは思えません。」
「そもそもピューマはジャガーより数が少ないじゃない?」

とデネロスがワインを啜って囁いた。

「きっとプンタ・マナでも一人しかいませんよ。だから、南部で密猟者達を片づけたのは、一人の仕事で、その人が逃げた男を追いかけてグラダ・シティに来たんですよ。」

 少佐が不機嫌な顔をした。

「ママコナのお膝元で仕事をするのですから、それなりに首領に挨拶はあった筈です。勿論、博士が私達にそれを告知される義務はありませんし、決まりもありません。でも・・・」

 彼女は天井に視線を向けた。

「アブラーン・シメネス・デ・ムリリョの会社の近所で血を流したのですから、アブラーンやカサンドラは大いに不満でしょうね。」
「彼等があの交通事故を誰かの粛清だと考えればな・・・」

とテオは言った。もし、粛清だと気がついていたら、あの兄妹は父親に抗議するのだろうか?


第11部  紅い水晶     10

  ケツァル少佐がロカ・エテルナ社の駐車場に車を停めたのは午後1時を少し回った頃だった。セルバ人なら昼食を楽しみ、昼寝を考える時間だ。少佐は指示された階の指示された場所に車を置いて、すぐ背後にあった扉の中に入った。ガラス張りの渡り廊下を通り、次の扉を開くと、そこはロカ・エテルナ社...