憲兵隊に逮捕されたエンリケ・テナンは仲間5人全員が死んだことを知らなかった。少なくともミーヤやプンタ・マナで死んだ3人は呪いで死んだと思っている様だが、残りの2人はまだどこかに隠れているか逃げていると思っていた。そして彼は密猟者グループに指示を出していたボスの存在も正体も知らないと言い張った。
「計画は従兄弟のトーベが立てていた。トーベはまだ逃げている。あいつを捕まえて聞いてくれ!」
そのトーベ何某は既に死んでいたのだ。グラダ・シティのオフィス街で車に跳ねられて。マルク・コーエン少尉はちょっと考えて、それから新聞社にガセネタを提供した。
ーー密猟者エンリケ・テナンは司法取引でグループに指示を出していた黒幕の正体を語ることを承知したと思われる。
「承知した」と断言していない。新聞社は「思われる」と言う文言を載せることに難色を示したが、憲兵隊に押し切られた。
その記事をトップに載せた新聞が販売された日の午後、憲兵隊に司法警察から連絡が入った。
ーーセルバ野生生物保護協会のロバートソン博士が荷物をまとめてアパートを引き払った。
コーエン少尉は直ぐに部下に指示を出した。グラダ・シティ国際空港でロバートソン博士を足止めせよ、と。警察には博士の尾行を指示した。もし博士が陸路や港湾へ向かう様なら直ぐに連絡をくれと。
逮捕劇はその夜に終了した。フローレンス・エルザ・ロバートソン博士は空港でネットで購入した航空券を提示して搭乗手続きを行なっている最中に憲兵隊に声をかけられた。彼女は同行を請われ、一旦断ったが、セルバ野生生物保護協会の資金横領容疑だと告げられると急に脱力して官憲の指示に従った。
セルバの憲兵隊は緊急配備以外夜間に働くことをしない。コーエン少尉はロバートソン博士の取り調べを翌朝に行うと決め、彼女を留置場に入れた。ロバートソン博士はアメリカ人で、大使館に連絡してくれと要求した。
「明日の取り調べで貴女に弁護士が必要とわかれば、大使館にも連絡しますよ。」
とコーエン少尉は意地悪く言って、扉を閉めた。