ケサダ教授は母親の目を見た。 ”心話”だ。 彼は直接件の石を見た訳ではない。同じ”ヴェルデ・シエロ”のケツァル少佐やロホから目撃した情報を”心話”で伝えられたのでもない。彼が知っているのは、”ティエラ”のテオが体験を口で語ったことだけだ。テオがロホから聞いた情報を又聞きしただけだ。耳から得た情報を母親に伝えたのだ。
マルシオ・ケサダ或いはマレシュ・ケツァルの名を持つ高齢の”ヴェルデ・シエロ”の女性はニコニコしながらテオを見た。そしてテオが理解し得ない言語で何やら言った。ケサダ教授が通訳した。
「母は言いました。『その石を欲しいわ』と。」
テオは彼を見て、そして車椅子の上の女性に向き直った。
「あの石は何なのでしょうか?」
ケサダ教授が古いイェンテ・グラダの方言で質問をした。マレシュ・ケツァルは答えた。
「サンキフエラ。」
数秒間沈黙があった。テオはそれがスペイン語だと気が付くのに数秒要したのだ。ケサダ教授が確認するかの様に復唱して母親の顔を見た。
「サンキフエラ?」
「スィ。」
頷く母親の目を覗き込んだ教授はちょっと顔を顰めて視線を逸らせた。どうやら単語そのものの嫌なイメージを母親に見せられたようだ。そしてテオに言った。
「お聞きになった通りの意味らしいです。」
「え・・・? すると、あの石は蛭(サンキフエラ)?」
教授が頷いた。
「蛭の石だそうです。」
「それじゃ、やはりあの石は人の血を吸うのですか?」
「その様です。」
「じゃ、何かの呪いのために・・・?」
「ノ!」
とマレシュが首を振った。
「あれは、良い石です。」
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