「神官が一度に複数入れ替えされるとなると、部族によってはかなり混乱が起きるんじゃないか? 特にサスコシ族とカイナ族、それに、マスケゴ族にも?」
テオが心配すると、ケツァル少佐は肩をすくめた。
「他部族のことは、関与しなかった部族には関係ないことです。サスコシ族はかなり厄介な状況になるでしょうけど。何しろ純血至上主義者とそうでない人々との対立がありますから。」
「カイナ族は人口が少ないって聞いた。特に純血種の家族が少ないって、フレータ少尉が以前言っていた。」
「フレータ少尉の家系は今回の事件に加担していなかったと思われるので、彼女の家系から候補者を出すでしょう。適齢期の子供がいなくても若い人をスカウトしようと長老会は画策すると思います。」
「女性神官がいてもいいんじゃないかな。」
テオはピラミッドの神殿で出会った”アタ”と名ばれる地位であろう女性長老を思い出した。彼女のような落ち着きのある常識人が神官になるべきだろう、と思った。
「女性は”名を秘めた女”一人で十分ですよ。」
と少佐が言った。
「彼女は女官や侍女達の意見をまとめて神官に命令や助言を与えているのです。もし神官が女達だったら、却って話がまとまらないでしょう。」
彼女がクスッと笑った。
テオはピラミッドの中でママコナと語り合ったことを思い出した。あの稀有な体験を少佐に教えられないのが残念だった。
「ママコナは外に出たいと思わないのかな?」
と故意に言葉に出してみた。少佐は肩をすくめただけだった。
「彼女が実際どんな人生を送っているのか、誰も知りません。もしかすると、こっそり”通路”を通って外へ出ているのかも知れません。でも私は知りたくありません。彼女が一族の最高権威である立場を守ってくれさえすれば、私達はまとまるのですから。」
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