サカリアスは、先祖の秘密を神殿に知られても大丈夫だと言う意味のことを言った。しかし、テオは信じられなかった。いや、サカリアスが信じられないのではない。神殿と言う「組織」が信じられなかった。今回の毒の事件からも分かるように、彼等は他人を傷つけることを平気でするではないか。
それに、テオが知っているグラダの子孫、ケサダ教授には彼個人の秘密がある。恐らく養父のムリリョ博士と妻のコディアしか知らない秘密だ。もしかすると、母親も知らないかも知れないのだ。それを神殿に絶対に知られたくない筈だ。
テオは話題をグラダの子孫の話から、本来の訪問目的に変更した。
「ところで、その現在の大神官代理ですが、お体が悪いのでしょう? 神殿ではなく外で治療されていると推測されていますが、どこにおられるか、ご存じないですか?」
ロホも我に帰ったように、兄を見た。
「そうだ、大神官代理の行方をお聞きしに、訪問しています。兄様はご存じないですか?」
サカリアスが肩をすくめた。
「あの男は・・・」
一族から尊敬されている筈の人物を、彼は「あの男」と呼んだ。
「伝統的な治療を信用出来ずに、白人の医療に頼っているよ。」
彼は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「君達のすぐ近くにいます。グラダ大学医学部病院にね。」
えっ!と驚いたのは、テオもロホも同じだった。 神の代理人である大神官代理が、現代医学に頼って入院している?
「そんなに悪いのですか?」
テオの質問に、サカリアスは溜め息をついた。
「恐らく、タチの悪いデキモノだろう。」
つまり、癌だ、とテオは思った。ロホが憂い顔になった。
「手術を受けたのでしょうか?」
「それはわからない。だが、彼は病院にいる。」
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