土曜日の夜だ。首都グラダ・シティは夜が更けても屋外を歩き回る人が多かった。広場ではコンサートも行われている。ギャラガはテレビも見なかったので、街がこんな風に賑やかな場所だと今更ながら思い出して驚いた。少し大通りから離れた脇道の角には、夜の商売女らしき人影も見えて、少し心が騒いだ。並んで歩いていたステファン大尉が囁くように尋ねた。
「なんだ?」
「何がです?」
「君の心が時々騒ぐ。」
博物館でムリリョ博士と大尉がギャラガは気を放っていると言った。今迄そんなことを言われたことがなかった。当然自覚もなかった。気を放出しているから、大統領警護隊に採用されたのか。長年の謎が解けた気がした。司令部は彼がいつか同僚達と同じ様に力を使いこなせるようになると思っているのか? 出来れば、そうなりたい。ギャラガは心からそう思った。
「ギャラガと言うのは父親の名前か?」
「スィ。」
「母親は何族だった?」
「知りません。」
大尉が頭をぽりぽり掻いた。
「ギャラガって、コンピューターゲームの名前なんだがなぁ・・・」
「え?」
「父親のフルネームは?」
「・・・知りません。」
「母親の名前は?」
ギャラガは記憶の底にしまっていた女の名前を出した。
「ルピタ・カノ です。」
「マリア・グアダルペ・カノ か?」
「え?」
「ルピタはマリア・グアダルペの略だ。」
ギャラガが黙ってしまったので、大尉は「まぁいい」と呟いた。
「カノはカイナ族に多い名前だ。だが君は自己紹介の時にブーカ族だと言った。」
「そう聞かされて育ちました。」
「私も君はブーカだと思う。カイナ族より気の力が大きい。純血のカイナ族はミックスの君より大きな気を持っていない。君の母親はブーカ族とカイナ族のミックスだったのだろう。本来なら、君の名前はアンドレ・カノ でも良かったのだ。」
慕った記憶のない母親だ。いつも打たれるか罵られていた記憶しかなかった。食べ物を与えられて放置されていたのだ。ギャラガは言った。
「ギャラガで良いです。因みに、どんなゲームですか?」
「宇宙での戦いをイメージした固定画面型のシューティングゲームだ。」
「じゃぁ、やっぱりカノよりギャラガで良いです。」
ステファン大尉が笑った。彼の名前はスペイン系だ。これはメスティーソでは珍しくない。それで尋ねてみた。
「大尉の姓は父方ですか母方ですか?」
「母方だ。」
と大尉は答えた。
「グラダ族の子供は母方を名乗る。だから母方の祖母もステファンだった。だが祖母の母親は別の名前だったのだろう。祖母はスペイン人の父親の名前を名乗った様だから。」
「グラダ族の血はどちらから?」
ちょっと興味が湧いた。もしギャラガの記憶が正しければ、現代グラダ族を名乗れる人は2人しかいない。グラダ系はいても半分以上グラダの血を持つ人は2人だけだと大統領警護隊の先輩達から聞いたことがあった。ステファン大尉はこう答えた。
「母からも父からも。」
そして彼は広場の屋台を指差した。
「あそこで晩飯にしよう。」
1 件のコメント:
カルロ・ステファンはまだグラダ族としての自信に満ちた気分ではないので、自分からグラダと名乗ることはない。ミックスであることが彼の無意識な負い目になっている。
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