「サン・ホアン村へ行きたいかって?」
テオは思わず大声を出してしまった。エル・ティティ警察の事務所の中だ。巡査達と、サン・ホアン村から来た男2人が振り返った。彼は慌てて電話に手を当てて声のトーンを落とした。
「今、サン・ホアン村の住民が例の遺体を引き取りに来ているんだよ。」
ーー笛が村人の物だと確認が取れたのですか?
日曜日の朝、電話をかけて来たケツァル少佐は、「ブエノス・ディアス」と挨拶するなり、いきなり「サン・ホアン村に行きたくないですか?」と質問して来たのだ。テオは面食らってしまった。昨日遺体の身元が判明したので少佐の電話に掛けたら、マハルダ・デネロス少尉が出て少佐は軍事訓練中で出られないと言った。デネロスも同じ訓練に参加していたのだが、捕虜の役なので荷物置き場に「監禁」されて退屈していた。遺体がサン・ホアン村の占い師の可能性があると彼女に伝言を頼んだ。
「スィ、占い師のフェリペ・ラモスの笛だって村長が確認した。村の近所の遺跡が荒らされていたので、様子を確認したラモスがオルガ・グランデへ出かけてそれっきり帰らなかったと・・・」
ーー遺跡が荒らされたと、村人が言ったのですか?
「スィ。昨日、俺はマハルダにもそう言ったけど?」
電話の向こうで少佐が舌打ちするのが聞こえた。どうやらデネロスは遺跡荒らしの情報を伝え忘れたらしい。文化保護担当部らしからぬ失態だ。
ーー村人は今日帰るのですか?
「ノ。今日はこれから墓掘りだ。帰るのは明日だな。」
ーー貴方だけでも今夜中にオルガ・グランデに行けませんか?
テオはバスの時刻を考えた。日曜日の午後はグラダ・シティ行きがあるが、反対方向のオルガ・グランデ行きはなかった。しかし・・・
「知り合いがトラックでトウモロコシを運ぶから、便乗させて貰えば夕方には着くかな?」
ちょっと期待して尋ねた。
「君は基地にでも行くのかい?」
ーー私は行きません。
テオはがっかりした。そうだろうな、遺跡荒らしの情報がマハルダで止まっていたのだから。
少佐は別の人間を派遣することを伝えた。
ーーステファン大尉とギャラガ少尉が行きます。基地で落ち合って下さい。
「え? カルロが行くのかい?」
驚きだ。大統領警護隊の本隊に呼び戻されてからステファン大尉と会えなくなって、寂しかったのだ。腹違いの姉そっくりの、あのツンデレ男が懐かしい。
さらに少佐が嬉しいことを言った。
ーー漏れなくマハルダも付けます。
基地に民間人のテオが行くことを伝えておくと言って、少佐は電話を切った。テオは楽しい気分になった。すぐにトウモロコシ農家の知人の家に行かなくては。その前にゴンザレスに出かけると伝えなくては。大学にも明日は帰れないので火曜日の講義を休むと伝えなくては。月曜日は講義がないので、気が楽だ。ところで・・・
テオはふと思った。
俺は何をしにサン・ホアン村へ行くんだ?
1 件のコメント:
つーか、少佐は何が目的でテオをサン・ホアン村へ行かせるんだ?
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