2021/09/11

第2部 ゲンテデマ  10

  ハイウェイ沿のドライブインで遅い昼食を取った。観光地なのでシエスタは関係なく店は営業していた。テオは米に糸状に裂いた肉をトマト味で煮込んだシチューをかけたイラーチャ・プレートを、ケツァル少佐は米に色々な蒸した野菜を添えて、スープに入れて食べるソパ・プレートを注文した。テオは生贄の目玉を忘れようと努力した。イスタクアテ・ロハスはジャガーの心臓の代わりに己の目をくり抜いてコンドルに捧げたのだ。そして甥が弟の仇を討ってくれたと思い、満足して海の底の弟の後を追って行った。
 ステファン大尉とギャラガ少尉は大空を舞うコンドルに導かれ、船の当て逃げ犯ジョナサン・クルーガーの家を突き止めた。そしてクルーガーを追い詰めたペラレホ・ロハスを間一髪のところで取り押さえた。クルーガーは警察に通報すると言ったが、大尉は彼と彼の女友達の目を見つめ、見たことを忘れさせた。
 グワマナ族の族長ロドリゴ・ロムベサラゲレスに連絡を取ると、グワマナ族の長老達がペラレホを引き取りに来た。ステファン大尉は長老達にイスタクアテとペラレホの2人のロハスが犯した罪を伝えた。コンドルの目玉を盗み、私怨を晴らす儀式に使った「神への冒涜」と、罪のないサン・ホアン村の占い師を殺害した罪だ。この時、ギャラガもちょっぴり追加の情報を伝えた。2人のロハスは大統領警護隊の隊員を殴って負傷させ、一晩捕まえていた、と。勿論大尉には教えなかった。余計なことを言うなと叱られるだけだ。

「結局クルーガーの当て逃げは有耶無耶にされるのかな。」

とテオが不満気に言うと、少佐がどうでしょうと返した。

「グワマナ族は当て逃げの犯人が彼だと知っていますし、今度は逃げられないよう監視するでしょう。彼のせいで一族の者が罪を犯したのですから、グワマナ族はクルーガーを許さないと思いますよ。」

 彼等は口を閉じた。テーブルのそばをアメリカ人観光客のグループが通った。男達が少佐を見て振り返っている。テオはちょっと優越感を覚えた。恋人ではないが、恋人同士に見えるだろう。
 彼等が奥のテーブルに行ってしまうと、テオと少佐は話を続けた。

「ペラレホは罰せられるのだろうな?」
「無罪とはならないでしょう。占い師を殺害した実行犯が彼なのかイスタクアテなのかわかりませんが、神像を冒涜して”ティエラ”に害を為したのです。占い師が彼等を神と頼って来たのに信頼を裏切ったのですから、一族の誇りが彼等のしたことを許しません。」

 少佐はペラレホの罪をさらに追加した。

「文化保護担当部に無届けで遺跡に立ち入りましたから、文化保護地域無断侵入と文化財損壊の罪で公訴します。」
「フェリペ・ラモスも遺跡に出入りしていた様だが・・・?」
「彼はサン・ホアン村の住民で、サン・ホアン村は元々ラス・ラグナスにあった村です。ラモスにはあの場所に出入りする権利がありました。」

 これでフェリペ・ラモスの霊も少しは浮かばれるだろうか? 否、まだ問題が残っていた。

「コンドルの目は今日中に遺跡の石像に戻されるのかな? ”入り口”を使わないと無理なんじゃないか?」

 ステファン大尉とギャラガ少尉はケツァル少佐からコンドルの目玉を受け取ると、少佐のSUVで先にグラダ・シティに帰ったのだ。テオと少佐がプンタ・マナの街でのんびり昼食を取っていたのは、グラダ・シティへ行くバスの時間調整の意味もあった。少佐はオフィスで留守番をしているロホやアスルに迎えに来いとは言わなかった。彼等には昨日から溜まった申請書の処理があるのだ。

「もし運が良ければ・・・」

 少佐はソパを食べてしまい、セビーチェとブリトーを追加注文した。

「ロホかマハルダが”入り口”を見つけて送ってやるかも知れません。」
「アンドレもブーカだろ? 彼にはまだ”入り口”を見つけるのは無理か?」

 すると少佐がテオの目をじっと見たので、テオはドキッとした。何かマズイ発言でもしたか? 彼女が言った。

「彼は自己紹介でブーカと言いましたが、ブーカではありません。」
「そうなのか?」

 アンドレ・ギャラガは半分白人だ。それは明白だった。残りの半分がブーカ族でないなら、どこの部族なのだ?

「彼の母親がきちんと息子に出自を教えなかったので、混乱が生じているのです。でも彼から発せられている気はブーカ族の波動とは異なります。」

 そこへセビーチェが運ばれてきた。少佐が器をテーブルの中央に押し出した。

「半分どうぞ。プンタ・マナで獲れた新鮮なシーフードですよ。」


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