ケツァル少佐は5杯目のコーヒーを注文し、3皿目のトーストを食べた。周囲のテーブルの客は既に5回転ほどしている様な気がした。テオが「今日は火曜日だな」と呟いたので、ギャラガは頷いた。捜査期限は明日だ。2日でコンドルの目を取り返して元の位置に戻せるだろうか。否、その前にカルロ・ステファン大尉を見つけ出して無事に救出出来るだろうか。
視線を感じて顔を上げると、ケツァル少佐の後ろのテーブルにロホとアスルが座っていた。思わず先輩に敬礼すると、テオが気づいて後ろを振り返った。
「ヤァ、ブエノス・ディアス!」
彼が陽気に挨拶すると、ロホが微笑み、アスルはフンと言った。
「駐車場にベンツがあるのに開庁時間になっても少佐が来られないから、様子を見にきたら、ここで油を売っておられる。」
アスルが皮肉を言った。少佐が地図を見たまま応えた。
「誰が油を売っているんです?」
ロホがアスルの顳顬をピンっと指で弾いた。
「代理でお仕置きをしておきました。」
「よろしい。」
少佐は電話を出して何処かに掛けた。暫く呼び出し音を聞いてから、電話に出た相手に名乗った。
「大統領警護隊文化保護担当部指揮官ミゲールです。」
相手の挨拶を聞いてから、彼女は尋ねた。
「ラ・コンキスタ通りとメルカトール通りの交差点広場の下水道はどんなルートで何処へ流れていますか?」
また数分間待ってから、彼女は「ではよろしく」と言って電話を切った。電話をテーブルの上に置いて、後ろのテーブルを振り返った。
「今日の申請は多いですか?」
「どうでしょう、まだ1日が始まったばかりですから。」
いかにもセルバ的な返事をしたロホは己の携帯を出して何かを調べた。
「ホルフェからのメールでは3件だそうです。」
「では明日に延ばしなさい。」
文化保護担当部の業務内容を決定するのは指揮官だ。
「アスルはラス・ラグナスの遺跡に関する情報を収集しなさい。未調査の遺跡ですから、資料は少ないです。飛ぶことを許可しますが、くれぐれも無理をせずに慎重になさい。」
「承知。」
アスルが立ち上がって店から出て行った。ギャラガは「飛ぶ」の意味がわからず、テオを見た。テオは何か知っていそうな表情だったが言葉に出さなかった。店内の客層が変化していた。早朝は互いに顔馴染みの感じだったが、時間がたつと見知らぬ者同士になってきたみたいだ。
少佐は次の命令を出した。
「ロホはコンドルの神様に関して情報を収集しなさい。怒りの鎮め方を必ず調べるように。」
「承知しました。」
ロホも静かに立ち上がって店から出て行った。
少佐の電話にメールが着信した。画面を見た少佐はそれをテオに見せた。テオが画面を見て頷いた。そしてギャラガに回してくれた。グラダ・シティの下水道配置図だった。紙の地図を撮影したもので、少佐が質問した下水の流れが赤いペンで強調されていた。それはギャラガとテオが歩いたルートで、少佐が黙って指先である一点を指した。2人が”着地”したポイントだ。その近辺にカルロ・ステファン大尉はいるに違いなかった。
1 件のコメント:
このあたりから原作とかなり違う展開になる。
こっちの方が現実的だし、作者的にもこっちの方が原作より面白い。
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