ステファン大尉はそっと”節穴”に指を入れてみた。すっと指が通り、彼は急いで指を抜いた。
「向こう側の”穴”は針の穴ほどの大きさで、向かいの石壁が辛うじて見えるだけでした。こちら側は大きいし、人の指が通ります。こちらが”入り口”に間違いありません。”入り口”と言っても、人が通れる大きさではありませんが。」
彼はテオに説明した。テオは石像を見つめた。
「神様の目をくり抜いたら、大統領官邸の庭へ”空間通路”が開いてしまったんだな。目を盗んだヤツは知っていてやったのかな?」
石像周辺に石の欠片が落ちている様子がなかったので、石像の目玉が持ち去られたと考えるのが妥当だろう。
「サン・ホアン村を通らなければここに来られないでしょう。」
とデネロスが言った。
「泥棒は車を使って来たのではありませんね。”空間通路”を通って出入りしたんですよ。恐らくこの付近に”出入り口”が揃っている筈です。」
”空間通路”を見つけるのが上手なのはブーカ族だ。デネロスはワタンカフラ地区のブーカ族だが、その血は8分の1だけのメスティーソだ。まだ自分で”入り口”を見つけたり、一人で通った経験がなかった。ステファン大尉もいくらかブーカ族の血が流れているが、”入り口”を見つけるのはあまり得意ではない。”通路”の利用は何度か経験があった。ギャラガに至っては、”空間通路”は話に聞いただけで、見たことがなければ使ったこともなかった。母親の話を信じれば、この中で一番ブーカの血が濃い筈なのだが。
夕暮れの風が一行の頬を撫でた。デネロスが西の空を見た。
「日が暮れます。キャンプに戻って夕食にしましょう。その後でこの付近を調べます。テオはキャンプに残って下さい。」
「どうして?」
「夜は目が見えないでしょう?」
言われてみればその通りだ。ここには街灯がない。太陽が沈めば、蠍や毒蛇や毒蜘蛛が出てくる時間だ。”ヴェルデ・シエロ”達は夜でも目が見えるし、気を放出して小さな敵を寄せ付けないが、普通の人間には危険な時間帯になる。
テオは承知した。
「わかった。車の番をしている。パブロもチコも訓練された兵隊だから、護衛は心配ない。もし人殺しの”ヴェルデ・シエロ”が現れたら、銃をぶっ放すから、戻って来いよ。」
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