どう言うわけだか、大統領警護隊文化保護担当部の「2次会」の場所はいつからかケツァル少佐のアパートに固定されていた。テオの車にこれまた何故だかわからないが少佐とステファン大尉が乗り、少佐の車にロホとギャラガ少尉とデルガド少尉が乗った。バルではそんなに飲まない代わりにたっぷり食べたので、持ち帰りの酒を購入した。
テオは運転しながら後部席の2人のシュカワラスキ・マナの子供達が静かなのが気になった。勿論”心話”で会話しているのだ。
ステファン大尉はロレンシオ・サイスがアメリカ国籍のミックスの”ヴェルデ・シエロ”で、一族のことは何も知らずに育った筈だが、ビアンカ・オルティスがポロリと漏らした情報では「理性で気を抑制している」と思われる、と伝えた。オルティスはサイスの変身はたった1回で、それもドラッグの服用が原因だと言った。しかしそのオルティスはグラダ大学の学生と名乗ったにも関わらず、その後のデルガド少尉の調査で偽りの身分を使ったことが判明した。彼女は最初のステファンへの接触の際も、ジャガーが歩いた方向を事実と逆の向きで証言した。サイスの祖父が異なる従姉妹だと名乗ったが、それも怪しい。彼女はサイスを庇っているのか、それとも何らかの理由で捜査を混乱させているのか。
そしてステファンは、これも言いたくなかったのだが、大学の図書館でケサダ教授に不意打ちを喰らい、”心を盗られた”ことを少佐に伝えた。教授は彼から何かしらの情報を盗み、そのすぐ後でテオにナワルにはピューマもありうることを伝えたのだ。恩師から己がまだ未熟だと思い知らされたステファンはその悔しさを、元上官と言うより、姉に思いきり訴えかけた。”心話”で粋がったり強がったりしても本心を隠すのは不可能だ。だから彼は素直に感情をケツァル少佐にぶっつけた。カルロ・ステファンからそんな感情の波を率直にぶつけられたケツァル少佐は一瞬戸惑った。そして自分の心が彼に伝わる前に、目を逸らし、彼の肩に腕を回して体を引き寄せた。
テオはルームミラー越に少佐が弟を抱き締めるのを目撃した。彼は急いで目をミラーから外し前方を見た。
少佐は腕の中でカルロが緊張したことを感じた。うっかり弱みを見せてしまった男の後悔だ。彼が目指しているのは、彼女を超えることだ。彼女より上へ行って、彼女を妻にする、それが彼の目標だった。しかし彼女は彼にそれよりもっと大きな目標を持って欲しかった。身分も階級も血の濃さも関係なく彼女と対等に立ってくれることだ。
彼女は囁いた。
「私は何も経験せずに少佐の階級を手に入れた訳ではありません。」
彼女は視線を前に向けていた。
「誰にも知られたくない失態もありました。それを乗り越えたことで今日があります。」
彼女は顔をステファンに向けた。一瞬目が合った。
ーー貴方にも出来ます。
そして彼を離した。ステファンは姿勢を整えた。
「失礼しました。ちょっと気張り過ぎたようです。どうも私は女性の扱い方をもっと学ぶ必要があります。」
復活が早いのは姉弟に共通だ、とテオは思った。
少佐が提案した。
「大尉の報告から、私にも思うところがあります。私の部下達の安全にも関わると思うので、この後で情報を共有させて欲しいのですが、構いませんか?」
つまり、ステファンとデルガドが得た情報をロホとギャラガにも教えてやって欲しいと言うことだ。少佐が伝えるのではなく、調査した遊撃班隊員本人達から伝えて欲しいと言う。
ステファンは素直に答えた。
「承知しました。デルガドにも報告させます。」
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