2021/12/19

第4部 悩み多き神々     12

  銃弾と弾薬にかかる費用を考慮して、遊撃班は「絶え間ない攻撃」はして来なかった。文化保護担当部もそれは同じで、各自持ち場から見える敵のグループの様子を伺い、油断していると思われる箇所へ撃ち込んだ。
 2時間経って、ケツァル少佐の元にセプルベダ少佐から電話が掛かってきた。

ーーそっちは怪我人が出たりしていないだろうな?
「全員無事です。そちらはいかがです?」
ーーフライングしてリーダーにビンタを食らったヤツが2名いたが、怪我人は出ていない。
「今日は迫撃砲の予定は?」
ーーそれは使わない。民家が近過ぎる。さっき、ギャングの抗争と勘違いした市民からの通報で警察が来た。こっちの車を見て、直ぐに帰ったがな。ところで、捕虜と話がしたい。

 ケツァル少佐はちょっと考え、「お待ちを」と言って、階段を軽々と駆け上がり、事務所に入った。そろそろ飽きてきたテオが何か言う前に、少佐はステファンの顔の前に電話を差し出した。

「セプルベダ少佐が貴方と話たがっています。」

 ステファン大尉は溜め息をついて、電話に向かって「オーラ」と声をかけた。遊撃班の少佐が尋ねた。

ーー何で捕まったんだ?
「申し訳ありません。ミゲール少佐の結界が破れなくて・・・」
ーー無理に破ろうとしなかっただろうな? ケツァルの結界にまともに突っ込むと、頭がパーになるぞ。

 テオにもその声は聞こえた。ちょっとゾッとする話だが、”ヴェルデ・シエロ”の結界は”ティエラ”には無害だと聞いているので、黙っていた。
 それはしていません、とステファンは否定した。

ーーまあ、良い。可能な限り逃げる努力をしろ。彼女に代われ。

 ケツァル少佐が電話を自分の顔に近づけた。

「何か?」
ーー昼休みはどうする?
「こちらは食糧持参です。」
ーーでは、1200から1400までシエスタだ。その後、突入を図るぞ。
「了解。では、もう2時間頑張りましょう。」

 ケツァル少佐は電話を終えて、携帯を仕舞った。テオが要求した。

「俺に耳栓の差し入れをしてもらえないか?」
「我慢出来ませんか?」
「訓練だと分かっていても、実弾だ。心臓に良くない。」
「アスル!」

 少佐が怒鳴った。直ぐにアスルが階段を駆け上がって来た。

「何か?」
「テオに耳栓を作ってあげなさい。」
「はぁ?」

 と言いつつ、アスルは再び階段を駆け下り、数分後に救急箱を持って戻ってきた。脱脂綿を切ってテオに無言で差し出した。

「そろそろ弾丸落としに飽きて来ましたが、少佐。」

と彼は遠慮なく上官に文句を言った。ケツァル少佐は彼を引き連れて階段を降りながら言った。

「1200から2時間昼休み、午後は向こうが侵入を図って来ます。白兵戦をしますから、我慢なさい。」

 その声を聞いたテオは不安になった。思わずステファンに、白兵戦?と聞いた。ステファンが言った。

「C Q BやC Q Cです。アスルの得意項目です。」




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