太平洋警備室のオフィスに別棟から戻って来たステファン大尉、フリータ少尉、ラバル少尉がその順番で入って来た。彼等はテオを見て、それからオフィス内の雰囲気で会談が既に始まっていることを知った。ガルソン大尉がステファンに”心話”でテオとの会談を伝えた。ステファンは頷き、2人の少尉にも情報提供を、と彼に言った。それでガルソンはラバルとフレータにも”心話”で伝えた。2人の少尉はテオがバス事故の生き残りだと知って驚いたが、その驚き方は同じではなかった。フレータは単純にびっくりした様子だったが、ラバルは却って警戒する様な目でテオを見た。記憶喪失を疑っているのかも知れない。
ステファンがそばに来たので、彼の席に座っているテオは立ちあがろうとした。ステファンはそのままと手で合図した。テオは尋ねた。
「キロス中佐はきちんと夕食を取ったかい?」
ステファンは肩をすくめた。フレータ少尉が答えた。
「出された物は全部召し上がりました。でも元気を失う前の半分の量です。」
「少しずつ量が減っている。」
とラバル少尉が呟いた。テオはキロス中佐をまだ見たことがないことに気がついた。こんな時は”心話”を使える”ヴェルデ・シエロ”達が羨ましい。彼はステファンを見上げ、尋ねた。
「君の任務は、ここで何が起きているかを調べることだろう? 本部に報告するかい?」
ステファン大尉は室内を見回した。ガルソン大尉、パエス中尉、ラバル少尉、そしてフレータ少尉が彼を見つめていた。指揮官を救えないだろうか、と彼等の目が訴えていた。彼はテオに言った。
「実際に何が起きているのか、私はまだ掴みかねています。キロス中佐は確かに心の病に罹っておられる様に見えます。しかし、何故そうなったのか、原因を探る必要があります。」
「我々は3年間調べ続けた。」
とラバル少尉が抗議口調で言った。
「だが、何もわからない。」
テオはガルソン大尉に向き直った。
「俺をキロス中佐に会わせて頂けませんか?」
「何の為に?」
「バス事故のことを教えてもらいます。」
彼はちょっと考え、それからこう言った。
「もしかすると彼女は俺に何か語ってくれるかも知れません。あるいは、彼女はバス事故と全く無関係かも知れませんが。」
ガルソン大尉はパエス中尉を見て、ラバル少尉を見た。それからフレータ少尉にも視線を向けた。最後にテオを見た。
「中佐が普通に会話が出来る状態なのか、私には判断が難しいのです。挨拶程度の短い会話なら出来ますが、5分も保ちません。座ったまま眠った状態になります。」
テオはステファンを振り返った。ステファン大尉は仕方なく食事の時の中佐の様子をテオに語った。
「食事はされますが、時々動かなくなります。食べている最中に意識が混濁しているのではないかと思われる様な・・・」
「それは重症じゃないのか?」
テオは心配になった。彼は室内の誰へともなく言った。
「あなた方は、中佐の異常をもっと早く本部に報告すべきだった。どんな結果になろうと、彼女の命を守ることが先決じゃなかったんですか?」
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