カミロ・トレントが立ち去ると、ギャラガ少尉は上官を振り返った。
「クエバ・ネグラ・エテルナ社の親会社は、ロカ・エテルナ社です。トレントに指図して海底の映像を奪わせたのは、ロカ・エテルナ社の人間ではありませんか?」
少佐が目を閉じた。
「厄介な相手です。社長はムリリョ博士の長子、アブラーン・シメネス・デ・ムリリョです。」
「”砂の民”ですか?」
「知りません。私が明確に”砂の民”だと知っているのは、首領のムリリョ博士とセニョール・シショカだけです。」
「ケサダ教授は・・・」
「彼もそうではないかと思っていますが、本当のところ、確認出来ていません。」
「でも、教授がドクトル・アルストに”砂の民”はピューマだと教えてくれたでしょう?」
「教えてくれただけですよ、アンドレ。そして彼はムリリョ博士の養い子で娘婿でもあります。”砂の民”の知識を持っていても不思議ではありません。」
「でも、”砂の民”は家族にも秘密を打ち明けないんじゃないですか?」
「常識的に考えれば、その通りです。ですが・・・」
少佐は目を開いた。
「ムリリョ博士とケサダ教授の関係は簡単ではありません。兎に角、今回の件はアブラーンにぶつかってみなければわかりません。8世紀に海の底に沈んだと言われる伝説の町と、現代の建設会社が発掘調査を妨害する理由がどう結びつくのか、訊いてみましょう。」
「グラダ・シティに帰るのですか?」
心なしかギャラガが残念がっている様に聞こえた。彼女は滅多に遠出しない若い部下を見た。ギャラガが遠出しないのは、遠出に慣れていないだけだ。出張を命じれば躊躇なく何処へでも行く。だが自発的に休暇に遠出したりしない。子供の頃は貧しくてその日の糧を得るので精一杯だったし、生きる為に軍隊に入り、休暇をもらっても帰る家も遊ぶ友人も持たなかったから、官舎から近くの海岸へ行くだけだった。
「帰るのは明日にしましょう。」
と少佐は言った。
「これから自由時間にします。好きに過ごしなさい。明朝700にここに集合。」
喜ぶかと思ったが、ギャラガはぽかんとして上官を見つめるだけだった。だから少佐も戸惑ってしまった。
「遊びに行って良いですよ。」
と言うと、逆に「貴女は?」と訊かれた。実を言うと少佐も午後の予定などなかった。カミロ・トレントが現れなければ彼を探しに行くつもりだったのだ。彼女は両手で髪をかき上げた。
「どうしましょう・・・」
ギャラガが窓の外を見た。
「もし宜しければ・・・」
と彼が言った。
「船を雇って、カラコルを海の上から見てみませんか?」
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