2022/03/09

第6部 水中遺跡   13

  地元民にとって大事な物・・・それがチャールズ・アンダーソンや謎の電話の主が探している物なのか?
 テオはモンタバル教授が何か危険なことに巻き込まれそうな不安を感じた。もしかすると発掘許可が出ない方が教授とサン・レオカディオ大学にとって良いのではないか。
 発掘装備と水中活動装備、それにサメ対策とモンタバル教授の考古学部には課題が多い様だ。
 食事が済むと、教授は全員の食事代を払うと言ったが、ケツァル少佐はキッパリと拒否した。公務員として民間人から利益供与を受けられないと彼女は言った。

「もし貴方がここでお支払いされると、私達は貴方に今後一切の発掘許可を出せなくなります。」

 そこまで言われると、教授も仕方なく引き下がるしかなかった。食事代は大皿から取り分けて食べた料理と同じように全員で均等に分担した。(但し、一番格下のギャラガの食事代を少佐が払ったことをテオは知っていた。)
 モンタバル教授と別れて、テオと大統領警護隊の3人はショッピングモールの中をぶらぶら歩いた。平日なので、そろそろ衣料品店などは店仕舞いしてシャッターを下ろし始めていた。少佐の養母の宝飾店がある区画へ行くかとテオは期待したが、そちらへは足を向けなかった。宝石や高級ブランドの衣料品店は食物の匂いがするのを嫌うので、ちょっと遠い場所に出店している。少佐はそこまでわざわざ行く価値を見出さなかったのだ。元よりブランド品には興味のない女性だ。開いている雑貨店などを冷やかしながら、彼等は駐車場に向かった。

「中国料理はいかがでしたか?」

と少佐が不意に質問した。テオは美味かったと答え、ロホも同意した。

「中国では医食同源と言って、食べ物も薬と言う考え方があるそうですよ。」
「そうなんですか。」

 指導師の資格を持っているので、少佐とロホは漢方の話を始めた。まだ若いギャラガはちょっと蚊帳の外だ。テオに、文化・教育省がある商店街にテイクアウト専門の中華料理店がありますよと話しかけた。テオは首を振った。

「あの店はお薦めしないな。中華を食べたければ、大学の学食で食べた方が良い。安いし、学生向けの味付けの物を作っている。唐揚げとか、エビチリとか・・・」
「今夜の焼きそばが気に入りました。」

 テオは笑った。

「食材店で材料を買って、ネットで作り方を検索しろよ。俺の家の台所を貸してやる。アスルに作ってもらうのも良いかもな。」

 ギャラガが悩ましげな顔になった。彼はアスル先輩が好きなのだが、アスルは気まぐれで無愛想だ。だからギャラガはちょっと苦手意識もあった。頼み事をしてもあっさり拒否されることが少なくないのだ。それにテオの家の台所はアスルの縄張りと言う認識をギャラガは持っていた。
 車に乗り込み、街に出た。テオは隣のロホに尋ねた。

「グラダ大学はクエバ・ネグラ沖の水中遺跡に興味がないのか?」
「水中遺跡を研究している学者がいませんから。」

とロホは答えた。

「主任教授、2人の教授、2人の准教授、それに大学院生の講師1人がいますが、全員地上遺跡の研究者です。」
「船は苦手なのかな?」
「船が、と言うより、地震で沈んだとされる街がヴェルデ・ティエラの街だったので、興味がないのでしょう。ンゲマ准教授が興味を抱くかと思ったのですが、彼はフランスの大学が発掘を希望している遺跡の方に関心があって、クエバ・ネグラに無関心です。」
「ああ・・・オクタカスやアンティオワカ辺りか。」
「スィ。海底遺跡は以前イギリス人が興味を持ちましたが、結局壺が10個ばかり出ただけで、生活の痕跡や祭祀跡がなかったのです。ですからグラダ大学に海に潜る人はいません。」

 ギャラガが「泳ぐのは好きですが、潜水はね・・・」と囁いた。あくび混じりだったので、少佐が運転しながら笑った。

「アンドレ、もうお眠ですか。」
「すみません、満腹で瞼が落ちて来そうです。」
「あと少しです、頑張りなさい。」

 少佐はベンツを大統領警護隊本部の正門前に停めた。ギャラガはリュックを手に取り、助手席から外へ滑るように降り立ち、上官とテオに敬礼した。そしてくるりと体の向きを変え、門に向かって走り去った。

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