「ネズミの神様は盗まれる時に抵抗しないんですか?」
とマハルダ・デネロス少尉が素朴な疑問を投げかけた。ロホが肩をすくめた。
「丁寧に運べば、神様は怒らない。元々アーバル・スァット様は雨が降らなくて困っている村を巡って祀られた神様だから、移動すること自体は問題ないんだ。それが輿ではなくダンボール箱に詰められたり、乱暴に扱われるとお怒りになる。」
「それじゃ、今回の泥棒は静かに神像を運び出したけど、警備員には負傷させたんだな。」
テオが言葉を挟んだ。大統領警護隊ではないが、文化保護担当部には準隊員みたいに参加を許されていた。
「警備員の証言はどうなんだ?」
とアスル。ケツァル少佐が携帯の画面を眺めた。
「バルデスはその件に関して報告していません。彼も現場から遠い場所にいますからね。」
「オスタカン族が住んでいた地域は、オクタカス遺跡に近いです。」
とギャラガが地図を見ながら呟いた。
「警備員はデランテロ・オクタカスの病院にいる筈です。バルデスより先に事情聴取したいです。」
少佐は黙ってまだ携帯の画面を見ていた。テオが覗き込むと、遺跡の写真だった。小さいのでよくわからないが、アーバル・スァット様が写っているのだろう。テオはアンゲルス邸でネズミの神様の負の力を感じたことがあった。遠く離れていても気分が悪くなる、強力な怒りの力だった。
少佐が顔を上げた。
「まず、事件発生の経緯を調べましょう。アンドレは警備員に事情聴取して下さい。ロホは各地の空港でネズミの気配を探すこと。アスルは故買業者の動きを探りなさい。」
「私は?」
とデネロス。少佐が冷たく言った。
「貴女はオフィスの留守番です。」
「ええ! どうしてですかぁ?」
物凄く不満な表情を遠慮なく顔に出してデネロスが抗議した。
「アンドレが事情聴取で私が留守番だなんて・・・」
「全くオフィスを無人にする訳に行かないだろ。」
とアスル。
「必ず誰かが留守番をするんだ。」
「それなら、アンドレが・・・」
「アンドレはグラダ族です。」
少佐がピシャリと言い放った。デネロスが頬を膨らませたまま黙り込んだ。ロホが説明を加えた。
「アーバル・スァット様はそんじょそこらの悪霊とは威力が違う。君は白人の血の割合が多いし、若い女性は悪霊が好む贄だ。頼むから、オフィスで後方支援に励んでくれ。」
するとアスルも言い添えた。
「前回アーバル・スァット様がロザナ・ロハスに盗まれた時は、カルロが留守番したんだ。彼はあの時能力を自在に使えなかったから。それにミックスは神様と対峙するとどうしても弱さが出る。」
少佐がニヤリと笑って提案した。
「留守番1人では荷が重いでしょうから、遊撃班から1人寄越してもらいましょう。マハルダ、その人の指導をお願いします。」
テオはその助っ人がカルロなのだろうか、デルガド少尉だろうか、と想像した。
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