2分もするとアンドレ・ギャラガは煉瓦作りの井戸枠にもたれて座れる程に回復した。ケサダ教授が新鮮な水を汲んで与えると、彼は少しずつ飲み下した。井戸の周囲を見回ったテオは何も手がかりを得られずに2人の側に戻った。
「アンドレ、アーロンを攫った連中を見たか?」
「顔は見ていません。しかし、軍服を着ていました。人数は不明です。」
「アーロンは声を出さなかったんだな・・・」
「私がいきなり倒れたので、彼は駆け寄ろうとして、それから立ち止まりました。恐らく・・・銃を向けられたのだと思います。」
「君には吹き矢で、アーロンには銃か・・・」
ギャラガは知らない人が見れば白人だと思うだろう。アーロン・カタラーニはメスティーソだ。アランバルリの一味は、多分誰が超能力者なのか判別出来ずに、「白人」のギャラガを殺してメスティーソのカタラーニを攫うことにしたのだ。もしかすると、昼間もテオと村長を殺害してボッシ事務官とケサダ教授を攫うつもりだったのかも知れない。
政府の正規軍が外国政府から公式に調査の為にやって来た科学者を殺害したり誘拐したりすれば、外交問題になる。敢えてするのなら、それは自国政府に対する反乱ではないか。
「アランバルリはクーデターを計画しているんじゃないか?」
「しかし、何の為に我々を襲うのです?」
と問いかけてから、ギャラガは自分で答えを思いついた。
「同じ力を持つもの同士で協力しろと?」
教授が肩をすくめた。外国人にクーデターの片棒を担がせるなど、馬鹿げている。それも銃で脅して・・・。
ギャラガが立ち上がった。腕や脚を振って筋力の回復を確かめている。
テオはケサダ教授に言った。
「俺はこれからアンドレと共にカタラーニを助けに行きます。」
反対されるかと思ったが、教授は黙って彼を見返しただけだった。
「教授は”幻視”か何かで事務官達に俺達が一緒にいると思わせておいてくれませんか。そして明日の朝、予定通りに帰国の途について欲しいんです。連中は調査団が騒ぎもせずに出発するのを不審に思って様子を伺いに来るでしょう。連中がバスに気を取られている間に、俺達はカタラーニを探します。」
ギャラガを見た。相談も何もしなかったが、ギャラガはテオの提案に同意を示して頷いた。
「私は軍人です。背中を射られるなんて不名誉なしくじりです。しかも友人を奪われるなど、あってはならない失敗をしました。自分の名誉回復を二の次にしても、カタラーニを取り戻したいです。ドクトルは私が守ります。もう失敗は許されません。」
ケサダ教授はテオとギャラガを交互に見比べた。
「確かに、私は民間人で、軍事行動に参加すべきではないな。」
と彼は呟いた。
「パストルの手も借りることになるでしょうが、国境を越える迄人々の目を誤魔化すのは容易いことです。ついでにバスを結界に取り込んでおきましょう。連中が一族の末裔であるなら、バスに触れない筈です。無理に押し入ろうとすれば脳をやられる。」
「もし銃撃されたら・・・」
ギャラガの心配に、教授が微笑で応えた。
「大統領警護隊だけが守護者ではない、エル・パハロ・ブロンコ。」
大先輩の能力を心配してしまったギャラガは赤面した。
テオは彼が十分動けるまでに回復したと判断した。それで教授に言った。
「カタラーニを救出してバスを追いかけます。」
教授も言った。
「ミーヤの国境検問所で待っている。あそこには一族の警備兵が大勢いるから、もし追手が来ても問題はない。」
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