2022/08/18

第8部 贈り物     23

 「例え幸運をもたらしてくれるとしても、神様を贈られるなんて、真平ごめんです。」

とカルロ・ステファン大尉は言った。彼はケツァル少佐と共に陸軍オルガ・グランデ基地の、大統領警護隊が利用する「控室」にいた。携帯電話のメールを読んでいた少佐が、顔を上げずに言った。

「そんな奇特な友人など持っていないでしょう。」

 彼女はロホからのメールを見つけた。建設省の警備室に入り込めたとあった。彼が警備員のふりをして仮眠室で休んでいても、誰も気がつかないだろう。ロホはその気になれば大臣執務室にも入れるのだ。
 アスルはネズミの神様が本来祀られているべき遺跡ピソム・カッカァにギャラガと共に行くとメールして来た。但し、夜が明けてからだ。その夜は病院で重体の警備員の様子を見守るのだと書かれていた。ギャラガからのメールはなかった。報告はアスルが引き受けた様だ。警備員が”ヴェルデ・シエロ”の爆裂波に襲われたらしいと言う文に、少佐は不快を覚えた。一族が関わっていることは明白だ。ネズミの神様は”ヴェルデ・シエロ”の能力で抑えることが出来るが、同じ”ヴェルデ・シエロ”を敵として戦うのは厄介だ。
 マリオ・イグレシアス大臣が誰からどんな恨みを買ったのか、調べる必要があった。シショカが調べている筈だが、あの男がそれを突き止めたとして、素直に情報を渡してくれる保障はない。”砂の民”として、さっさと仕事をしてしまうかも知れない。
 少佐はマハルダ・デネロス少尉がムリリョ博士と上手く接触出来ることを願った。博士はメスティーソの”ヴェルデ・シエロ”を嫌っているが、デネロスのことは気に入っているのだ。物怖じしない勇敢な娘、と誉めていた。
 ステファンが毛布を被って寝転んだ。

「明日はグラダ・シティですか?」
「そのつもりですが、何か?」

 オルガ・グランデはステファンの生まれ故郷だ。しかし彼は故郷にあまり良い思い出を持っておらず、懐かしいとも感じない。任務で帰郷しても、仕事が終わるとさっさとグラダ・シティに帰ってしまうのだ。
 ステファンは、「別に」と呟いたが、すぐ言い訳した。

「ネズミの神像の石を切り出した川は、あの川ですよね?」

 あの川というのは、”暗がりの神殿”のそばを流れる聖なる地下川だ。少佐は「スィ」と答えた。

「言い伝えでは、川の石を切り出して、神像を作ったそうです。旱魃に苦しむ農民を救う為に。」
「昔の人々はそう言うことが出来たんですね。」
「今でもママコナなら出来るでしょう。」
「グラダ族でもないのに?」
「グラダ族でもママコナの修行をしなければ出来ませんよ。ママコナは最長老達に幼い頃に仕込まれるのです。」
「では最長老は神像を作れるのですか?」
「念を込める資格を持つのはママコナだけです。」

 ケツァル少佐はママコナではないし、最長老でもない。ステファンの質問に全部答えられる訳でなかったから、だんだん面倒臭くなってきた。

「明日は早いですよ、早く寝なさい。」


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第11部  紅い水晶     19

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