昼食を学内のカフェで済ませたテオが、シエスタの為に大学の中庭の木陰で芝生の上にスペースを見つけ、寝転がっていると、ケツァル少佐から電話がかかって来た。彼が出るなり、彼女が厳しい口調で質問して来た。
ーー昨夜、カルロからケサダ教授の情報の内容を聞きましたか?
恐らく司令部から神像盗難の調査について何らかの命令が下ったのだ。少佐はそれに不満で、彼女の様子を見たデネロス少尉かギャラガ少尉が、車に乗る前にカルロ・ステファン大尉がケサダ教授に待ち伏せされたことを告げたに違いない。ステファンは情報の内容を誰にも教えなかったが、嬉しい知らせを受けた訳ではない、と少尉達は感じた。そして大統領警護隊本部の通用門で少尉達が降車した後、ステファンは直ぐに続いたのでなかった。テオと何か話をしていたことを彼等は知っていた。
テオは溜め息をついた。
「司令部から君に指示が下る迄、何も言うなとカルロに言われたんだ。指示が出たんだね?」
少佐は直ぐには答えなかった。テオは彼女に内緒にしていたことを、彼女が怒ったのだと思った。
「少佐?」
ーー貴方を巻き込みたくありません。
と少佐が言った。
ーーだから、本当はカルロが貴方に情報を告げたのは間違いです。
少佐はマスケゴ族の選挙の情報を司令部から聞かされたのだ。だから、テオがその政争に巻き込まれはしないかと心配していた。だが、テオはもうその政争の端っこに足を踏み入れてしまった。
「カルロを責めないでくれ。彼はほんのちょっぴり喋っただけだ。選挙があるってだけだよ。それで捜査権が文化保護担当部から他所の部署に移るかも知れないって、それだけ教えてくれたんだ。」
また数秒間黙ってから、少佐が尋ねた。
ーー本当にそれだけですか?
「誓って、それだけだ。」
ーー人の名前とか、組織の名前とか聞いていませんか?
「聞いていない。」
微かに安堵の溜め息が聞こえた。だから、テオは緊張を和らげる為に言った。
「カルロだってそんなに口が軽い訳じゃない。遊撃班の副指揮官なんだから。」
ーー彼は貴方を信頼していますから・・・
少佐がちょっぴり嫉妬の響きを声に混ぜて言った。ステファンがテオに告げて彼女に黙っていたことが許せないのだろう。それを言うなら・・・
「元凶はケサダ教授だ。彼がカルロではなく君に伝えてくれたら良かったんだ。」
ーー男性が夜に女性の家を訪ねる訳にいかないでしょう。
時々”ヴェルデ・シエロ”は変に礼儀作法にこだわる。
「それじゃ、彼はカルロじゃなくロホやアスルでも良かったってか?」
ーー恐らく。
少佐は怒りが収まって来たのか、声のトーンが下がって来た。
ーーもしあの場でデネロスか私しかいなければ、女性でも良かったかも知れませんけど。
「だけど、ムリリョ家やシメネス家が関わっていないなら、どうして彼が首を突っ込むんだ?」
ーーそれは・・・
少佐がフッと笑った。
ーー聞こえてしまったからでしょう。本人に訊いてみてはいかがです?
そして彼女は話題を変えた。
ーー今夜は普段通りに帰ります。貴方は?
「俺も普通に帰るが・・・?」
ーーでは、今夜。
少佐は唐突に電話を終えた。
テオは携帯電話を眺め、それから人文学舎を見た。ケサダ教授とじっくり話し合ってみたかった。
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