明日はオルガ・グランデに向かって出発すると告げると、ボリス・アキム夫妻は寂しそうな顔をした。アメリカ人のマイロや息子と同年代のチャパと別れるのが寂しいのだ。
「しかし、アスクラカンにシャーガス病の原虫はいないと言うことですね?」
「原虫を媒介するサシガメが見つからないと言うことです。」
マイロとしてはアスクラカン中のサシガメを採取したいが、それは無理な相談だった。兎に角、虫そのものが見つからない。中南米でこんな清潔な街があるだろうか。少なくとも、ハエや蚊はいるのだが街中ではあまり見かけない。だから露店でも生物を平気で販売している。グラダ・シティの方がもっと雑然としていた様な気がした。
「オルガ・グランデへ直行する前に、エル・ティティに立ち寄られてはいかがです?」
とアキムが提案した。
「エル・ティティですか?」
地図に載っている街だ。ルート43が通る町でアスクラカンの次に大きいが、グラダ・シティの人々の話では、「町の機能が整っている村」と言う見識だった。
アキムが頷いた。
「建物は庶民的な土壁や煉瓦壁が多い。住民は人懐こい。それに、多少は設備が整った病院があって、医者達と専門的な話も出来ます。少なくとも、アスクラカン市民病院よりは、話をまともに聞いてくれますよ。」
マイロが頷くと、せレーヌが「でも」と言いかけた。そして夫の表情を窺った。アキムが微笑して頷いたので、彼女は続けた。
「宿泊出来る場所は一ヶ所だけです。満室はあり得ないと思いますが、もしいっぱいだったら、教会に行って下さい。神父がなんとかしてくれます。」
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