車で連れて行かれたのは、ホテルではなく誰かの別荘と思われる様な建物だった。豪奢な邸宅が点在する日当たりの良い斜面の上の方にある、2階建ての白い壁の家屋で、芝生の庭が贅沢に見えた。オルガ・グランデで庭に芝生を持つことは、裕福な印だ。数人の身なりの良い男女がその庭で散策したり、景色を楽しんでいた。
「アンゲルス鉱石が顧客の為に経営しているペンションです。」
と運転手が告げた。
「お客様は欧米やメキシコ、ブラジル等から来られます。」
つまり金を買いに来ているのだろう。運転手はマイロとチャパの荷物を持つとフロントへ案内した。レセプションでチェックインの手続きを頼むと、マイロとチャパに頷いて外へ出て行った。
マイロにとっては、このランクの宿泊施設は決して初めてではない。アメリカ国立感染症センターで勤務する科学者なら自腹で泊まれるか否かは別問題として、学会のシンポジウムやその他の会合でこの手の施設を利用することが何度かある。しかし一介の学生であるホアン・チャパには初めての経験だ。ロビーに入った途端に緊張している彼を促し、チェックインの手続きを済ませ、マイロはスタッフに案内されて部屋へ入った。綺麗なシングルの部屋で、寝室と居間がある。居間にバスルームのドアと隣の部屋へ繋がるドアがあった。チャパの部屋と行き来出来る構造だった。スタッフが夕食はダイニングルームで自由に取れること、料金はオーナー持ちなので気にしないで良いこと、と説明してから、最後に言い足した。
「恐らくお食事の頃に、オーナーが挨拶に来る予定です。どのお客様のテーブルにも回って行かれますから、お気楽にお待ち下さい。」
オーナーとは、即ちセニョール・バルデスと言うフィクサーだな、とマイロは思った。この奇妙な待遇の説明を聞かせてもらえるのだ。自国の名誉の為に、強盗の被害に遭った外国人を一人一人もてなしている筈がない。きっと何か訳ありなのだ。
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