ベテランの空間移動って、凄い! とテオは心から感動した。キロス中尉は仲間を空中に放り出すことなく、上下重なって出ることもなく、綺麗に入った順に目的地に”着地”した。
出た場所はアンティオワカ遺跡と思われる石組と草木のちょっと開けた所だった。キロス中尉は慎重に持参した拳銃を構えて周囲の安全をチェックした。本来はアサルトライフルを持って来たかったのだが、”入り口”が住宅街にあったので、ライフルを持ち歩く訳にいかなかったのだ。デネロス少尉もサッと目視で安全確認した。そして最後に現れたケツァル少佐に確認した。
「ここがアンティオワカ遺跡ですね?」
「スィ。」
ケツァル少佐はキロス中尉とデネロス少尉に頷いて見せた。テオは以前麻薬密売組織の倉庫代わりに使われたと言われる石の建造物を眺めた。何処に隠したのか知らないが、湿度が高い土地だから、白い粉は湿気ていたのではないだろうか、と要らぬ想像をした。
少佐が西の方角を指した。
「憲兵隊はあの方向へ殺人現場捜査に入りました。我々も彼方へ行きましょう。」
「ロホ達を待つんじゃないのか?」
テオの質問に彼女は首を振った。
「自動車部隊は食糧調達を済ませてからここへ来ます。我々はここをベースキャンプにしますから、夕方には戻って来ます。」
「憲兵隊はもう引き上げたのですか?」
とデネロス。その質問にはキロス中尉が答えた。
「彼等がジャングルの中で何日も過ごす筈がないじゃないか。死体発見現場を確認して付近をちょっと探してみただけで、一日で撤退したんだ。」
ジャングルの中で長時間滞在出来ない軍人達をちょっと軽蔑する声音が入っていた。憲兵隊は都会で任務に就いていることが多く、ジャングルで働くのは滅多にない。本格的にジャングルで活動する時は陸軍特殊部隊が同行するのが、セルバ共和国軍の常だった。それは今や絶滅危惧種みたいになった反政府ゲリラを警戒するためだ。人数が減ったと言っても、ゲリラはまだ存在する。ほとんど野盗になっているが。
大統領警護隊はジャングルでの軍事演習を頻繁に行うし、所謂超能力者である彼等は単独でも大勢の敵と戦える。キロス中尉にはその自信と誇りがあった。ケツァル少佐はそんな若い中尉の慢心をちょっと危険だと感じたが、黙っていた。他の部署の部下だし、軍人を多く輩出している名門の家系の出だ。たまには失敗しても構わないだろう。命の危険がない限りは。
彼女は腕を振って、出発の合図を出した。
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