2023/12/24

第10部  穢れの森     2

 翌朝、テオはケツァル少佐とサン・ペドロ通り3丁目にあった”入り口”前に行った。以前アンティオワカ付近に行ける”入り口”はテオの前の家の近くにあったのだが、今度は少し移動していた。住宅地の中なので、空間通路に入る時は人目につかないよう用心が必要だ。2人は迷彩柄の上下を着ていた。テオもすっかり軍人仕様だ。ジャングルの中を動くのだから、動きやすい服装で行く。2人が到着して数分後にはデネロス少尉とキロス中尉が現れた。デネロスは官舎からで、キロスは実家からだが、何故か一緒に来た。

「本部出入りの食品会社の車で送ってもらって・・・」

とデネロスが説明した。

「キロス中尉のお家がたまたま途中にあったので、中尉も拾って来ました。」

 キロスは黙って挨拶の敬礼をしただけだった。照れ臭いのだ。それに白人の前でガールフレンドの世話になったと言いたくないのだろう。彼等も迷彩柄の上下だった。少佐と同じリュックサックだから、これは大統領警護隊の支給品だろう。
 彼等は入り口の前に立った。テオには見えないが、”ヴェルデ・シエロ”達には空間の穴が見えているのだ。

「先導をキロス中尉にお願いします。」

と少佐が言った。空間通路を通る先導は難しい。後続の仲間をはぐれないよう導かなければならないし、通路を出た途端に敵と遭遇する危険性もある。また、とんでもない場所、例えば崖っぷちとか下水道の中に出てしまう可能性もあった。ケツァル少佐は先導が上手ではない。彼女はいつも後続の仲間を空中に放り出したり、前後上下逆に出してしまったりするのだ。だから、彼女はキロス中尉に依頼した。ブーカ族は空間通路の使用が上手だ。それに中尉はよく通路を利用して出張する。
 キロス中尉は敬礼で承った、と答えた。少佐がデネロスに彼と手を繋ぐよう命じた。そして反対側の手をテオに掴ませ、彼女自身はテオの空いている手を掴んだ。

「では、行きます。」

とキロス中尉が軽い調子で言った。いかにも通路使用のベテランの口調だった。
 

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第11部  紅い水晶     21

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