2023/12/29

第10部  穢れの森     6

  テオとケツァル少佐は森の中に歩を進めた。彼女がテオの為に気を放出して小動物を遠ざけたり、木の葉に体を擦り付けて音を立てても平気だったので、テオは尋ねた。

「犯人が現場に残っている筈はないとは思うが、存在を知られる行為をして大丈夫か?」
「平気です。」

 少佐はアサルトライフルを銃口を上に向けた姿勢で肩に掛けたまま歩いていた。

「向こうはサバンを殺害したと考えられるだろ。”シエロ”を殺せるのは”シエロ”だけじゃないか?」
「まるでセニョール・シショカみたいなことを言うのですね。」

と少佐がニコリともせずに言い返した。

「不意打ちを喰らえば、何者であろうと敵に倒されますよ。」

 そして続けた。

「サバンの正体を知った上で彼を殺害したのなら、敵は”シエロ”に対処する方法を知っています。だから、”シエロ”が追って来ていると教えてやるのです。向こうは防御体制に入るでしょう。敵が”シエロ”なら、その気配がわかります。気が動きますから。”ティエラ”なら、物音を立てます。どんなに用心深くても、人間が立てる音はわかります。」

 テオは彼女が戦闘モードに入っていることを悟った。こんな時は彼女の前に出たり、余計なことを話しかけない方が身のためだ。
 それから2人は黙って歩いた。少佐は臭いを辿って歩いたので、時々風向きが変わると立ち止まって方向を計算していた。テオはそっと携帯を出した。電波は届いていないが時刻は見えた。アンティオワカ遺跡を出発してから4時間経っていた。もう自動車部隊は遺跡に到着してベースキャンプを設置しているだろう。もしかするとデネロス少尉とキロス中尉に合流したかも知れない。
 やっと少佐が足を止めたのは、それから1時間後だった。2人は乾いた倒木を見つけて座り、携行食で昼食を取った。

「犯人はどんな人間だと思う? こんな森の奥で”シエロ”に敵対しても意味がないだろ?」
「どう言う意味ですか?」
「つまり、サバンが殺されたのは、偶然だったんじゃないのかな。何か犯罪を目撃してしまって、或いは犯罪が行われていると知らずに接近してしまって、犯人に消されたのでは?」
「こんな森の奥で犯罪ですか?」
「動物の密猟とか?」
「ああ・・・」

 ケツァル少佐が合点したと頷いた。彼女は遺跡の保護が任務で盗掘のことと麻薬犯罪のことしか考えていなかったのかも知れない。

「サバンもコロンも野生生物保護協会の会員でしたね。密猟者を見てしまったのかも知れません。」


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