2024/01/17

第10部  穢れの森     20

  日曜日だったから、テオはロバートソン博士を自宅へ送り届けると、己も真っ直ぐに自宅へ帰った。シャワーを浴びて部屋着を着て、ケツァル少佐の区画のリビングでぼんやりテレビを見ているうちに眠たくなって寝てしまった。
 空腹で目が覚めたのは午後2時を回った頃だった。室内でいつ戻ったのか、ケツァル少佐が普段着姿で動き回っていた。彼女もシャワーを浴びて落ち着こうとしていた。

「おかえり。昼飯は食ったかい?」

 声をかけると、ノ、と返事が来た。それで2人で外に出て、坂道を下り、最寄りの商店街へ行った。急いで行っても最初の昼の客がまだ席にいるだろうから、ゆっくりと歩いて行った。

「全部見つけました。」

と彼女が歩きながら囁いた。テオは黙っていた。

「埋められていたのは一人だけです。」

 それでテオは鑑定結果を告げた。

「骨そのものは分析出来る成分が残っていなかった。でも一緒に掘り出したコイン状の物が、アマン地区の女神のお守りだとわかって、オラシオ・サバンがいつも肌身離さず持っていたこともわかった。それでロバートソン博士と一緒にサバンの父親に会って、遺骨とお守りを渡して来た。」
「サバンの父親は何か言っていましたか?」
「いや・・・ロバートソンが一緒だったから、詳しい話は出来なかった。何かあれば連絡をくれるよう言ったが、多分俺には何も言って来ないだろう。」

 少佐が首を振って同意した。そして彼女の方でわかったことを言った。

「殺害者は穴を掘って遺体を入れ、ガソリンか何か油状の物をかけて焼いたようです。殺人の痕跡を消したかったのでしょう。結構深い穴でした。焼けた人間の他に焼かれていない動物の骨もありましたから、密猟者が日頃獲物の後始末に使っていた穴だと思われます。」
「すると、サバンは密猟者と出会してしまい、殺害されたのかな。」
「恐らく・・・でも、一族の者があっさりと殺されるなんて・・・」

 身を守るためなら、例え大罪を犯してでも爆裂波を相手に使うだろう、とテオも少佐も想像した。

「不意打ちだったのかも、な。」

とテオは呟いた。

「密猟者の方が先にサバンの存在に気がついて、先手を打ったんだ、きっと。」

 ケツァル少佐がさらに声を低くして言った。

「アスルが密猟者の姿を見るために心を過去に飛ばしました。彼は今、国境付近の憲兵隊に一族の者がいないか探しています。犯人の顔を伝えるために。」


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