テオはシショカが建築工学の教授を訪ねたと聞いた時、ちょっと不安になった。建築工学の先生達とはあまり交流がなかったが、誰かがシショカに粛清対象と見做されたのではないかと心配した。しかし2日経っても特に変わったことは起こらず、大学にいる”ヴェルデ・シエロ”達にも動きはなかった。
大統領警護隊文化保護担当部は平常通りの業務を続け、手配中の密猟者も今のところ無事なのかニュースになっていなかった。
オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの遺族は遺体の一部を返還され、葬儀を済ませた。”ヴェルデ・シエロ”も普段は一般のセルバ国民として暮らしている。サバンの葬儀はコロンと合同でカトリック式で教会が執り行った。
友人ではなかったが、テオはケツァル少佐と一緒に葬儀に参列して、死者を送った。セルバ野生生物保護協会の会員達が大勢出席していた。テオの耳に彼等のヒソヒソ話が聞こえてきた。
「犯人が自殺したらしい。」
「法の裁きを待てなかったらしいね。」
「誰かが神々に復讐を依頼したって噂だ。」
「それはもしかして、サバンの家族か?」
「おいおい、憶測でものを言うな。失礼だぞ。」
「サバン家が復讐を望んだとしても、私は反対しないわ。密猟者がしたことは酷すぎる。」
「憲兵隊に逮捕された男は、仲間のことを何か喋ったのか?」
「わかりません。憲兵隊は取調べの内容を公開しませんから。」
「主犯が誰かもわからないのだろうか?」
ケツァル少佐がテオに囁いた。
「ロバートソン博士の嘆き方は尋常ではないですね。」
言われて、テオは協会のネコ科研究の代表者を見た。フローレンス・エルザ・ロバートソンのやつれ方は確かに酷かった。すっかり憔悴し切った表情で、他の協会員に支えられて歩いている感じだ。
少佐は滅多に憶測を語らないのだが、この時はテオに感じたことをそのまま告げた。
「彼女はサバンかコロンを個人的に愛していたのではないでしょうか。」
テオはそっと遺族席を見た。コロンには妻子がいた。幼い子供2人を連れた妻が親族に守られて座っていた。サバンは独身だった。テオも面会した父親と、離れて暮らしていた母親と兄弟が来ていた。
テオは参列者全体を見回して見た。殆どが協会関係者と故人の友人だと思われた。
ここに密猟者が懺悔の気持ちで来ていることはないだろう。粛清者も来ていない。
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