2024/02/26

第10部  粛清       10

  テオとケツァル少佐は喪服ではなく、地味なスーツ姿と簡素な制服姿だった。葬儀の正装ではない。親族でなく友人でもないから、軽い服装で故人を見送った。墓地までついて行ったが、埋葬には参加せずに離れた場所で見ていた。

「ロバートソン博士は、サバンが先に行方不明になって、彼を探しに行ったコロンも消息を絶ったと、貴方に言ったのですよね?」

と不意にケツァル少佐が囁いた。テオは墓穴に土を投げ入れる人々に気を取られていたので、彼女の言葉を聞き逃し、もう一度繰り返してくれと頼んだ。少佐は言葉を追加して言った。

「ロバートソン博士は、サバンが先に行方不明になって、彼を探しに行ったコロンも消息を絶ったと、貴方に言ったそうですが、あれほど憔悴する程サバンを想っていたなら、コロンが言い出す前に彼女がサバンを探す手配をした筈です。或いはコロンを想っていたなら、彼一人でサバン捜索をさせなかったでしょう。」
「彼女の憔悴は一度に仲間を2人酷い形で失ったからだろう?」
「そうでしょうか?」

 少佐はちょっと冷ややかな目でセルバ野生生物保護協会の人々を見た。

「博士以外の協会員達はショックを受けていますが、彼女ほど打ちのめされているように見えませんよ。」
「個人の心の中がどんな状態なのか、俺達にはわからないさ。」

 テオは少佐が何を考えているのだろうと気になったが、彼自身には些細なことに思えたので、その日の夕方にはすっかり忘れてしまった。

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第11部  紅い水晶     19

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