2024/02/05

第10部  追跡       13

  死亡が確認されたのは、ミーヤの国境検問所で手配ポスターに印刷された3名だった。つまり、あのポスターの写真を見た”砂の民”がいて、行動を起こしたのだ。
 密猟者の一人はミーヤの教会裏の森の中で首を吊っていた。2人は少し北へ行った小さな村の畑の外れで互いの胸をナイフで刺し合って死んでいた。喧嘩の果ての相討ちと警察は結論づけて、それで終わりだ。
 恐らく3人共、”砂の民”による幻覚などで精神的に追い詰められたのだ。”砂の民”は決して自分達の手を直接下したりしない。標的を「勝手に」死なせるのだ。
 夕食の後で、テオはケツァル少佐からその話を聞いて、げんなりした。出来れば法的な処罰を受けさせたかった。しかし”ヴェルデ・シエロ”の掟では、彼等の存在に関する証言を密猟者達の口から引き出す事態は厳禁なのだ。
 大統領警護隊も”砂の民”の今回の仕事に対して沈黙している。多分、オラシオ・サバンの遺族は満足するだろう。しかし、イスマエル・コロンの家族は? 
 セルバ共和国では、損害賠償を請求するには犯人が生きていなければならない。国として犯罪被害者の救済制度などないのだ。このままではコロンは死に損ではないか、とテオが言うと、少佐は冷ややかに言った。

「犯人を捕らえて有罪に持ち込んでも、賠償する経済力を持っていませんよ。密猟者達は麻薬の密輸業者と違って、その日暮らしの人間ばかりです。」

 テオは悲しい気分でビールをがぶ飲みした。すると少佐が彼の空瓶を集めながら言った。

「残りの手配書が出ていない3人ですが、そのうちの2人は憲兵隊の資料に該当者がいました。残りの1人が誰か、突き止めなければなりません。資料にあった2人の手配書は明日にでも作成されるでしょう。」

 テオは顔を上げた。アルコールで少し顔がピンク色になっていた。

「”砂の民”はそいつらも狩るだろうな。」
「スィ。でも、最後の1人を彼等も突き止めねばなりませんから、2人のうちのどちらかは生かして捕まえるでしょう。」
「捕まえる? 連中は直接手を出したりしないだろう?」
「直接殺さないと言う意味ですよ。拷問や思考を引き出すことはします。」
「それじゃ、俺達もその最後の1人を探して憲兵隊に突き出してやろう。」

 彼は力強く言った。

「仲間が”ヴェルデ・シエロ”を殺した結果、酷い死に方をしたことを承知しているなら、そいつは絶対にサバンの正体を口外しないだろう。命を助けてやる代わりに、コロンの家族に少しでも償いをさせるんだ。」

 少佐は黙って彼を見ているだけだった。そんなに上手くいくかしら、と言いたげに。

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第11部  紅い水晶     19

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