2024/03/19

第10部  罪人        2

 「テオが憲兵隊のマルク・コーエン少尉との会談でセルバ野生生物保護協会の資金の流れに疑いを持った様ですが・・・」

 少佐が語りかけたので、テオは片手を揚げて彼女を制し、自分で話し始めた。

「殺害されたオラシオ・サバンの父親にコーエン少尉と共に面会したんだ。その時、父親が息子のノートを見せてくれた。オラシオ・サバンは彼が働いていた協会に密猟者と繋がりを持つ人間がいると疑っていた。そのノートはコーエン少尉が持ち帰って彼なりに分析している筈だ。コーエン少尉と俺は、本来動物を保護しなきゃならないセルバ野生生物保護協会の人間が密猟に加担する理由を、考えた。そして協会の資金の流れがどうなっているのか知るべきだと思った。オラシオ・サバンは父親に協会に資金援助している企業があって、その主力たる企業がロカ・エテルナ社だと言った。俺達はロカ・エテルナ社が動物の密猟の黒幕とは思っていない。コーエン少尉だってそれくらいわかっている。問題は、大きな会社から援助してもらう資金がどんな使われ方をしているか、だ。コーエン少尉はセルバ野生生物保護協会の財政状況を調べると言った。勿論、それは憲兵隊の仕事だ。だから、俺はロカ・エテルナ社にセルバ野生生物保護協会とどんな利益関係があるのか知ろうと思い、ケサダ教授にアブラーン・シメネスに連絡をつけて欲しいと頼んだ。」

 大統領警護隊の友人達がちょっと驚いた様子を見せた。顔見知りだと言っても、ロカ・エテルナ社は大企業でそこの社長となると、いきなりアポなしでぶつかっても会ってもらえない。ケサダ教授は社長と義理の兄弟だが、義弟の紹介と言えどもアブラーン・シメネスはすぐに時間を割ける程暇ではない。ギャラガが尋ねた。

「アブラーン・シメネスは会ってくれたんですか?」
「ノ、俺はアブラーンが無理ならカサンドラに会いたいと言ったんだ。すると教授は彼女が現在スペインに出張中で留守だと教えてくれた。しかし、慈善事業や学究施設各所に援助をする部署があって、そこのセルバ野生生物保護協会担当の人に連絡を取ってくれたんだ。」

 デネロスがニヤリと笑った。

「やっぱり教授は頼りになりますね!」

 ケツァル少佐が肩をすくめ、ロホとアスルとギャラガは彼女に同意した。
 テオは話を進めた。

「俺は今日、ロカ・エテルナ社の財務部のアコスタと言う人と会った。アコスタはセルバ野生生物保護協会が密猟者と繋がっているとは考えていなかったが、協会への資金援助が減額される話を教えてくれた。アブラーン・ムリリョ社長は協会の植樹活動などには積極的に協力しているが、ネコ科部門はこの数年目だった成績を揚げておらず、森の保護がひいては動物保護に繋がると言う観点から、協会にネコ科部門を森林部門に合併吸収させる提案をしていたようだ。」
「すると・・・」

 ロホが声を発したので、テオは口を閉じた。ロホは割り込んでしまったことを謝罪してから、考えを述べた。

「ネコ科部門は資金減額も森林部門への吸収も嫌だと思っている。だから、密猟を増やして危機感を社会に与え、資金減額を止めさせようとした・・・」

 テオは頷いた。少佐が不愉快そうな顔をした。

「では、あの嘘泣き女を調べるのですね?」
「嘘泣き女?」

 テオの怪訝な表情を見て、少佐は言った。

「オラシオ・サバンとイスマエル・コロンの葬式の時、ロバートソンは泣くふりをしていたではありませんか。」

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第11部  紅い水晶     8

 研究室に入るとテオはケツァル少佐に電話をかけてみた。少佐は彼からの電話とわかったので、すぐに出てくれた。バックで船の汽笛らしき音がして、彼女が港湾施設にいることがわかった。 「出かけている時に申し訳ない。」 とテオは切り出した。 「ケサダ教授から依頼されて、文化保護担当部の人に...