ケツァル少佐のアパートのリビングで、大統領警護隊文化保護担当部の面々とテオは静かに時を過ごしていた。その日の夕食はカーラの手料理だった。とても美味しかったが、みんな口数が少なく、家政婦を心配させてしまった。
「いつもと同じで、とても美味しいですよ、カーラ。」
と少佐が珍しく気を遣った。
「ただ、仕事で今日はみんな疲れているのです。」
そしていつもと同じように、アスルがカーラの帰宅準備を手伝い、バス停まで送って行った。
少佐が酒類を出してきて、それぞれに配った。ロホは白ワイン、テオとアスルはビール、ギャラガは水で割ったブランデー、デネロスは赤ワイン、そして少佐はストレートのブランデー。
「”砂の民”は着実に仕事をしていますね。」
とロホが呟いた。テオは頷いた。
「きっとプンタ・マナから密猟者を追跡して来たんだ。俺はグラダ・シティの”砂の民”全部を知っている訳じゃないが、いくら大都会だからと言って、一つの都市にそう何人も”砂の民”がいる筈もないだろう?」
ギャラガが同意した。
「ムリリョ博士は動いていらっしゃらないし、建設省のマスケゴは無関心でしょう? 私も他のピューマを知りませんが、3人もこの街に住んでいるとは思えません。」
「そもそもピューマはジャガーより数が少ないじゃない?」
とデネロスがワインを啜って囁いた。
「きっとプンタ・マナでも一人しかいませんよ。だから、南部で密猟者達を片づけたのは、一人の仕事で、その人が逃げた男を追いかけてグラダ・シティに来たんですよ。」
少佐が不機嫌な顔をした。
「ママコナのお膝元で仕事をするのですから、それなりに首領に挨拶はあった筈です。勿論、博士が私達にそれを告知される義務はありませんし、決まりもありません。でも・・・」
彼女は天井に視線を向けた。
「アブラーン・シメネス・デ・ムリリョの会社の近所で血を流したのですから、アブラーンやカサンドラは大いに不満でしょうね。」
「彼等があの交通事故を誰かの粛清だと考えればな・・・」
とテオは言った。もし、粛清だと気がついていたら、あの兄妹は父親に抗議するのだろうか?
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