2024/03/09

第10部  粛清       21

 「ウーゴ・アコスタです。ロカ・エテルナの財務担当部副主任をしています。」

 男はサングラスを外してテオに目を見せた。サングラスをかけていると、ちょっと映画に出て来る悪党に見えたが、実際の目元は穏やかそうだった。普通のメスティーソのセルバ人だった。
 テオは自己紹介をして、近づいて来たウェイターにコーヒーを注文した。そしてアコスタに向き直った。

「ケサダ教授からお聞きになったと思いますが、セルバ野生生物保護協会へ御社が出されている援助金の額が来年度減額されるとのことですが・・・」

 アコスタが目をぱちくりさせた。

「ケサダ教授からそんなことをお聞きになったのですか?」

 テオは言い方を間違えたことに気がついた。教授に迷惑をかけてはいけない。

「間違えました。ケサダ教授は俺からその話を聞いただけです。俺はセルバ野生生物保護協会の会員の家族から援助金の話を聞きました。」
「ああ・・・それなら納得しました。」

 アコスタが頷いた。

「我が社は道楽で慈善行為をしているのではありません。確実に寄付した金が活かされる事業を援助しているのです。例えば、森を伐採した後に次の木の苗を植える事業、これは将来の地球環境の保全に繋がります。そして我が社が建築する建物の資材確保になります。海岸の清掃、これは綺麗な浜辺を守れば観光客が増え、ホテルの建設などに繋がります。」
「野生生物の保護は繋がりませんか?」
「動物の食物連鎖を無視したり蔑ろにするつもりはありません。しかしセルバ野生生物保護協会はこの数年何の成果も挙げていません。成果と言うのは、動物の生息数を維持することや生息環境を守ることです。しかし彼等が活動していると称する地域では森林伐採の面積が増え、動物が減っている。それに対して彼等は抗議行動をしていないし、政府に働きかけたり、関連事業者に話し合いを持ちかけてもいない。我々の目から見ると、彼等はただ自分達の給料を援助金から捻り出して、働かずに稼いでいるとしか思えないのです。」
「援助金を有効に使っていない、と?」
「その通りです。」
「しかし・・・協会員2名が密猟を止めようとして殺害されたことはご存知ですね?」
「新聞に出ていましたから、知っています。しかし、何故今起きたのですかね?」

 アコスタの奇妙な言葉にテオは引っかかった。

「何故今起きたか・・・ですか?」
「密猟は以前から行われていました。しかし生活出来る様な金は稼げません。今はワシントン条約で厳しく取り締まっていますから、動物を簡単に輸出出来ません。組織的な密猟でもしなければ、割りに合いませんよ。だが、新聞に出ていた密猟者連中は、普通の農夫だったのでしょう? 5人か6人のグループだったそうですが、それならもっと大掛かりに狩りをして、密輸するルートを持っていた筈です。だがそんな話も出ていない。」


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