2024/04/26

第11部  紅い水晶     6

  1週間経った。その間、グラダ・シティは平和で大きな事件も事故も起きなかった。テオは久しぶりに週末エル・ティティに帰省した。珍しく土曜日の軍事訓練を副官のロホに一任してケツァル少佐もテオに同行した。まだ正式に婚約発表した訳ではなかったが、もう同居しているのだし、彼女も彼の伴侶となる心構えをしている様子で、テオの義父アントニオ・ゴンザレスと新しい伴侶となるマリアも彼女を義理の娘として迎えてくれた。エル・ティティの若い友人たちも集まって、テオと少佐は仕事を忘れて楽しい週末を過ごした。ゴンザレスは少佐が富豪の娘だと知っていたので、自分達との「格差」にちょっと不安を抱いていたが、少佐は全く気にせずに、村の女性達と一緒に歌ったり踊ったり、食事の準備や後片付けをして、「普通の女性」であることをアピールした。

「疲れないかい?」

と二人きりになった時、テオが気遣うと、彼女は何を馬鹿なことを訊くのだ、と言いたげな顔をした。

「私は普通の女ですよ。軍人でも家事はするし、”シエロ”でも世間話は大好きです。」
「そうじゃなくて・・・君は・・・君の両親はお金持ちで・・・」

 少佐が「あはは!」と笑った。

「私は子供の頃、両親が仕事で旅行が多かったので、遊び相手は使用人の子供達でした。私は彼等と一緒に使用人の親の手伝いをしたのです。私の両親はそれを知っても、少しも嫌がりませんでしたし、使用人達も遠慮なく私に用事をさせてくれました。大人達は、私が将来どんな生活をするかわからないから、子供のうちに色々な経験をさせなければ、と理解していたのです。ミゲール家はオープンな家で、使用人の子供達も私と一緒にお稽古事をさせてもらっていたし、私よりお上品に社交界作法をマスターしている人もいましたよ。」

 そして彼に言った。

「私は大統領警護隊を引退するつもりはありませんが、貴方との生活の基盤を置く家をこのエル・ティティに決めても構いませんよ。私の両親が世界中を飛び回っても必ずセルバに戻って来るようにね。」

 そして週明けに、テオと少佐は仲良くグラダ・シティに戻った。


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第11部  紅い水晶     15

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