2024/04/27

第11部  紅い水晶     8

 研究室に入るとテオはケツァル少佐に電話をかけてみた。少佐は彼からの電話とわかったので、すぐに出てくれた。バックで船の汽笛らしき音がして、彼女が港湾施設にいることがわかった。

「出かけている時に申し訳ない。」

とテオは切り出した。

「ケサダ教授から依頼されて、文化保護担当部の人にムリリョ博士と連絡を取ってくれと頼まれたんだ。」
ーームリリョ博士にですか?

 少佐の声に訝しげな調子が入った。

ーー教授は私の番号をご存じの筈ですが、どうして貴方を通すのです?
「俺にも分からないさ。」

とテオは言った。やはりケサダ教授は少佐やロホ達の電話番号を知っているのだ。しかし直接電話したくない。何故だろう。

ーー博士が私達にどの様なご用件なのでしょう?
「俺にも分からないが、カサンドラの部下が先日出かけた遺跡で何か拾い物をしたので、相談があるそうだ。」
ーー遺跡で拾い物?

 それは、大統領警護隊文化保護担当部から見ると「法律違反」の行為だ。遺跡からは許可なく物を持ち出してはならない。例えそれが小石であっても。しかし娘の部下が法律違反をしたからと言って、わざわざ文化保護担当部に相談するムリリョ博士ではない筈だ。

ーー教授はそれが何か仰らなかったのですか?
「それどころか、何か知らない様だ。それとも関わりになりたくない感じで・・・」

 また電話の向こうで汽笛が聞こえた。

「今港かい?」
ーースィ。憲兵隊と共に遺跡から出土した美術品の密輸阻止をしたところです。
「すまない、仕事の邪魔をしたな。」
ーー構いません。終わりましたから。博士には私から連絡を入れます。厄介なことにならなければ良いのですが、博士の手に負えないことでありそうな予感がします。

 「ではまた」と言って少佐は電話を切った。テオは電話をポケットに入れてから、ラス・ラグナスの遺跡を思い起こしてみた。乾き切った土の塊がぽつんぽつんと立っていた、古代の村の跡地だ。コンドルの神様は力を持っていたが、他に災いの元になるような物はなかった筈だが・・・。


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第11部  紅い水晶     18

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