2024/04/28

第11部  紅い水晶     9

 ”ヴェルデ・シエロ”と付き合うと、その物事への周りくどい対処の仕方や、やたらと遠回しな表現とかで苛々させられることが度々ある。ケツァル少佐は生粋の”ヴェルデ・シエロ”で、生まれながら大ピラミッドのママコナ(巫女)からテレパシーで一族の作法を教わったが、育て親は殆ど普通の人間に等しいメスティーソの養父と完全に普通の人間の養母だったので、白人社会で育ったも同然だった。だから今でも時々一族の伝統を重んじる人々と接すると内心ストレスが溜まることが多い。自分がこんなだから、白人のテオはもっと辛いだろう、と彼女は想像出来た。テオはアメリカ人らしく感じたことをズバズバ口に出すので、それでストレス発散が出来るようだが。
 テオから「ムリリョ博士に連絡を取って欲しい」と言うケサダ教授からの伝言を聞いて、彼女は溜め息をついた。博士は慣習を守って異性である彼女に直接電話をかけない、と言う訳ではなく、博士は自分の都合でかけたりかけなかったりするだけだ。教授の方は恐らく今回の要件に関わりたくないのだ。博士から大統領警護隊に連絡を付けろと命じられて、渋々テオに声をかけたに過ぎないのだろう。
 港湾での職務を終えると、昼になっていて、少佐は昼食をどうしようかと考えながら、車に乗り込み、ムリリョ博士に電話をかけた。博士は誰からの電話かすぐわかったのだろう。3回目の呼び出し途中で出てくれた。そしていきなり言った。

ーーカサンドラに電話してくれ。

 一方的にカサンドラ・シメネスの電話番号を告げて、彼は電話を切った。
 ケツァル少佐は腹が立つよりも、何となくことの厄介さを想像してうんざりした。さっさと面倒を片付けてしまおうと言う考えの下で彼女は教えられた番号を入力した。呼び出し音が5回を超えて、切ろうかと思った時、声が聞こえた。

ーーカサンドラ・シメネスです。
「大統領警護隊文化保護担当部指揮官ミゲール少佐です。」

 正式名を告げると、先方は「ああ」と安堵したかの様な声を出した。

ーー少佐、グラシャス、すぐお会いできますか?

 急いでいる。少佐は物事がただならぬものであると予感した。

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