2024/05/06

第11部  紅い水晶     16

  ロホとアンドレ・ギャラガが車から降りて来た。2人とも上半身はTシャツだが、下は迷彩柄のパンツと軍靴で、ギャラガはアサルトライフルを持っていた。悪霊に銃器は効力がないが、別の使い方がある。
 大統領警護隊のロゴ入りジープを見た通行人達が急いで遠ざかるのを、3人の”緑の鳥”達は気にせずに集合した。ケツァル少佐はロホ、ギャラガの順に”心話”でカサンドラ・シメネスからの情報を伝えた。
 ロホとギャラガは顔を見合わせた。彼等はラス・ラグナス遺跡に行った経験がある。ギャラガは2回行って、1回目は空間通路を初体験したし、2回目はロホとステファン大尉と共に盗まれたコンドルの神像を元に収める儀式を行った。何の時も不審な気配を感じなかった。

「セニョーラ・シメネスが目撃した拾い物が山の中に転がっていた物だとすると、その正体に見当がつきません。」

と祈祷師の資格を持つロホが言った。

「ラス・ラグナス遺跡と関係があった物なのか、別の村の物なのか、それ一つだけなのか、まだ同じ物があるのか・・・」

 少佐が手を挙げて彼の言葉を遮った。

「まだ実物を見ないうちからあれやこれや考えても埒が開きません。兎に角、ディエゴ・トーレスが無事なのかどうか、確認しましょう。」

 彼女は体の向きを変え、道に面して建っているクリーム色の壁の小さな2階建ての家を見た。小さいが高級住宅地に建つ家らしくスパニッシュ・コロニアル様式で、若い富裕層に人気の建築だった。低いフェンスで囲われた庭は芝生と草花が植えられている。ディエゴ・トーレスは独身だと言うことだが、一人暮らしでそんな庭の世話が出来るだろうか。
 門扉を開いて、ギャラガが上官達を振り返った。

「私は何も怪しい気を感じませんが・・・?」
「ノ、私もだ。」

とロホが同意し、ケツァル少佐も認めた。
 3人は狭い庭を横切り、ドアの前に立った。少佐が正面に立ち、ロホが脇に立ち、庭に面した掃き出し窓の方を見た。ギャラガがドアをノックした。
 返事はなかった。屋内に人がいる気配もなかった。ギャラガはそれでもノックを試み、声をかけた。

「セニョール・トーレス、大統領警護隊だ。」


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第11部  紅い水晶     22

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