テオが電話をかけた時、ケツァル少佐は大統領警護隊本部の司令部にいた。トーコ中佐に面会を申し込んで了承されたのだが、実際は待たされた。客ではなく隊員なので、待合室には通されず、廊下の椅子に座ったままだった。膝の上にハンカチに包まれた石が載っていた。石は布越しで悪さはしないようだ。しかし彼女は素手でそれを掴んだ時の感触を覚えていた。掌がくすぐったいような気がして、皮膚の下を吸引されるような感じがしたのだ。あの時、身の危険を感じて咄嗟に石を投げ出してしまったが、もしあのまま握っていたら、何が起きたのだろうか。
電話はマナーモードにしてあったが、着信は分かった。見るとテオからだったので、周囲を見回し、誰もいないことを確認して彼女は電話に出た。
「オーラ、静かに願います。」
小声で話せ、と要求した。テオは状況を想像してくれた。
ーーマレシュ・ケツァルが情報を持っていた。石は瀉血療法を行う道具みたいだ。
彼の早口の伝言に、彼女は耳を疑った。
「瀉血療法ですか?」
ーースィ。悪い血を石に吸わせて病気を治す、と。彼女はサンキフエラと石を表現した。
少佐は副司令官室のドアの向こうの気配を感じた。誰かが出てくる。彼女はテオに言った。
「グラシャス、参考になります。」
そして電話を切った。
ドアが開いた。中佐の秘書の隊員が彼女の名を呼んだ。少佐は返答して立ち上がった。秘書は彼女を室内に入れず、代わりに命じた。
「地下神殿へ行って下さい。アスマ神官が面会されます。」
少佐は一瞬息を止めた。神官直々に面会するとは、滅多にないことだ。神官はママコナの代理人だ。その言葉は国政にも影響を及ぼす。
少佐は敬礼で応え、体の向きを変えた。ちょっとドキドキした。
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