2024/06/21

第11部  石の名は     17

  テオとケサダ教授は木陰のベンチに腰を下ろした。まだ日は高く、大学は賑やかだった。テオは授業を終えてその日の仕事を終了していた。ケサダ教授はまだ予定があるのかないのか不明だった。
 テオは大統領警護隊文化保護担当部に頼まれて鉱物分析に掛けたことを語った。何の変哲もない水晶だったのだ。そしてその時点で石は綺麗な透明だった。それを己の掌に載せた時の感触、色の変化、そしてケツァル少佐とロホがディエゴ・トーレスを救助した時に目撃した真紅の石の話も語った。
 聴き終わると、ケサダ教授は膝の上に両肘を置き、暫く両手で顎を支えて考え込んでいた。彼はオルガ・グランデの生まれだ。しかし10歳になるかならぬかでムリリョ博士に引き取られ、グラダ・シティで育った。恐らく故郷の伝説や風習は学生になってから学んだ筈だ。

「奇妙ですね・・・」

と教授が囁いた。テオが「え?」と振り返ると、彼もテオを見た。

「その石が本当に呪われた物であったなら、万民に災いを与える物であったなら、”名を秘めた女”は、私の娘やムリリョ博士にではなく、ケツァルかエステベス大佐に危険を伝えた筈です。」

 そう言えば・・・とテオも思い当たった。以前、死者の悪霊が憑依した少年が己の家族を惨殺した事件があった。大統領警護隊遊撃班のカルロ・ステファン大尉がその悪霊を木像に憑依させ、処分を上官に頼もうとグラダ・シティに持ちこもうとしたのだ。しかし、ママコナはそれを嫌った。ケツァル少佐に心の声を送り、汚れを首都に持ち込ませるな、と訴えたのだ。
 もし、今回の石も呪われた物なら、ママコナは未熟な少女や彼女の言葉を聞けないマスケゴ族の大人達にテレパシーを送ったりせずに、大統領警護隊に指図を出しただろう。
 テオは教授に尋ねた。

「もしかすると、俺達は、その石に対して、大きな勘違いをしているのかも知れませんね?」

 教授が頷いた。

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