2024/07/02

第11部  石の目的      1

  アリアナ・オズボーン(セルバ流に発音すればオスボーネ)の出産は一晩かかり、夜明け近くになって、彼女は男女の双子を産んだ。元気な産声を上げた我が子の誕生に、父親のシーロ・ロペス少佐は人前にも関わらず涙を流し大喜びした。
 テオとケツァル少佐、そしてマハルダ・デネロス少尉はセルバの習慣に従い、ロペス家の庭で、ロペス少佐の父親と共に夫婦と子供が帰るのを待った。テオは、大仕事を終えた母親はもっとゆっくり病院で休ませた方が良いのではないか、と内心心配だったが、”ヴェルデ・シエロ”達はちっとも心配していなくて、ロペス家では母と子を休ませる部屋の準備をお手伝いさんが大急ぎで設え、半分白人の血を引く子供のために呼ばれた遠縁の女性が、厳しい顔つきでテオの横に立っていた。
 ケツァル少佐は女の子の、パパ・ロペスは男の子の名付け親になる。2人はどうやら相談がついていたらしく、目と目を合わせて頷き合っていた。
 やがて朝日が射す道路をロペス少佐の車が近づいて来ると、デネロスはもう待ちきれない様子でソワソワと道端に立った。
 車が停車し、人々は車の周囲に集まった。ロペス少佐が運転席から出て来て、後部のドアを開いた。アリアナがゆっくりと降りて来た。恐らく手順を病院か車内で夫から聞かされていたのだろう、彼女は一人目の赤ちゃんを抱いて降りると、夫に渡した。ロペス少佐は壊物を抱くように慎重に赤ちゃんを抱き取った。次にアリアナは車内から2人目の赤ちゃんを出した。多分、本当はその子も父親が抱くのだろうが、アリアナが夫にピッタリくっついて抱きかかえ、夫婦揃って父親の前に立った。
 遠縁の女性が、本来は赤ん坊の祖母の役目であるらしい祈りの言葉を古い言語で囁き、赤ん坊を祝福した。そして赤ん坊一人一人の目を覗き込んだ。 ”心話”で新生児に何かを語りかけたのだ。それから彼女は後ろに退がり、パパ・ロペスとケツァル少佐に場所を譲った。
 ケツァル少佐がアリアナの前に、パパ・ロペスがシーロ・ロペスの前に立ち、女の子から先に名を呼んだ。

「ペドレリーア・オスボーネ・ロペス。」
「テソーロ・オスボーネ・ロペス。」

 どちらも「宝石」「宝物」と名を与えられた赤ちゃんは朝の光が眩しいのか目を閉じた。
 儀式はそこまでだった。パパ・ロペスがそこにいた人々に声をかけた。

「中へ入ろう。細やかな朝食を用意している。そして母親を休ませよう。」

 テオは夫とキスを交わす妹を誇らしく思いながら見つめていた。

 遺伝子組み換え人間も子供を作れるんだ!

 彼はケツァル少佐の手を取った。少佐が彼を振り返り、にっこり微笑んだ。

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第11部  石の目的      4

  テオは南部国境警備隊に派遣されているブリサ・フレータ少尉から電話をもらった。フレータ少尉はオルガ・グランデ出身のカイナ族で、太平洋警備室で10年以上勤務していたが、不祥事で国境へ転属になったのだ。尤も本人は閉塞的だった海辺の村から人間の往来が盛んな国境で働くことに喜びを感じて...