2024/07/03

第11部  石の目的      2

 賑やかに朝食を食べた後、アリアナは赤ちゃん達と準備された部屋へ去った。遠縁の女性も一緒だった。テオが、彼女は乳母になるのかと訊くと、パパ・ロペスが首を振った。

「彼女はあくまで補助だ。子供達に躾を施すだけだ。子守は別に雇う。」

 雇われる子守は恐らく普通のセルバ市民だ。メスティーソとして生まれた孫達に、パパ・ロペスは”ヴェルデ・シエロ”であることを押し付けるつもりはないのだ。孫達がどう生きていくのか、それは孫達に任せるつもりだった。もしこれが、ムリリョ家だったら、そうはいかないだろう、とテオは思った。ファルゴ・デ・ムリリョ博士は寛容な面を見せるが、それでも純血至上主義者なのだ。子供が白人と婚姻するなどもってのほかだし、メスティーソの孫を持つのを恥と思うに違いない。ただ、サスコシ族の純血至上主義者と違って、異人種の血が混ざる家族を排斥することはしない。例え「恥」と思っても、己の血を受け継ぐ子孫は絶対に守る、それがあの人だ。
 アリアナは幸せだ。ロペス家はシーロの代迄純血を保ってきたが、父親は一人息子が幸せになるのであれば、どんな種族と結婚しようが気にしないのだ。多分、アリアナがアフリカ系であってもアジア系であっても、シーロが妻に迎えると言えば容認したに違いない。実際、アリアナは親族の集まりがあればいつも参加させてもらえる、とテオに嬉しそうに語ったことがあった。女性の同席が許される儀式や宴席には、必ず夫婦で招待され、パパ・ロペスは誇らしげに「息子と娘」と紹介してくれるのだ、と。そして親族の誰かが異人種差別と受け取れる言動をすれば、必ずシーロより先にパパ・ロペスが怒ってくれるのだ、と。
 朝食がひと段落ついたところで、シーロ・ロペス少佐がケツァル少佐に尋ねた。

「来月大統領が在セルバの外交官達を集めてガーデンパーティを行うが、貴女の部署は警護の当番に入っていますか?」
「ノ。」

 ケツァル少佐は即答した。

「今回は入っていません。珍しく太平洋警備室から2名呼ばれていると聞きましたよ。」
「太平洋警備室から?!」

 シーロ・ロペスが珍しく驚いた表情を見せた。

「あんな遠くから、わざわざ?」
「スィ。恐らく、研修も兼ねるのだと思います。派遣された隊員達も向こうに行ったきりでは、ホームシックになるでしょうから。」

 そう言えば、現在の太平洋警備室は首都から派遣された隊員で構成されているのだ。テオは警備班車両部のガルソン中尉は彼等に元いた場所の様子を聞きたいのではないかな、と思ったが、黙っていた。軍隊は郷愁に浸る場所ではないのだ。

 

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第11部  石の目的      4

  テオは南部国境警備隊に派遣されているブリサ・フレータ少尉から電話をもらった。フレータ少尉はオルガ・グランデ出身のカイナ族で、太平洋警備室で10年以上勤務していたが、不祥事で国境へ転属になったのだ。尤も本人は閉塞的だった海辺の村から人間の往来が盛んな国境で働くことに喜びを感じて...