「”ヴェルデ・シエロ”が毒の粉を買った・・・?」
ケツァル少佐が綺麗な眉を寄せて不快そうな顔をした。デネロス少尉がカダイ師の言葉を”心話”で伝えると、溜め息をついて彼女は頷いた。
「そう考えるしかなさそうですね。」
「だが、”サンキフエラの心臓”を神殿の宝物庫から持ち出した警備兵が犯人ではないだろう?」
とテオが訊くと、彼女は首を振った。
「司令部から私には何の情報も来ません。でも一介の隊員があの古代の石の存在や役目を知っていたとは思えません。それに宝物庫に近づくことも不可能です。」
「それじゃ、神官か巫女が犯人か?」
「巫女は宝物庫を開く鍵を持っていません。無断借用も出来ない筈です。」
デネロス少尉が憂い顔になった。
「神官が犯人なのでしょうか。でも、どうして?」
「神官達は出かけているんだってな?」
テオが言うと、少佐は小さく頷いた。
「神託を得る為に、秘密の場所にお出かけです。」
テオはちょっと意地悪く言った。
「まさか、”暗がりの神殿”じゃないだろうな。」
少佐は彼の言葉を無視した。デネロスに顔を向けて言った。
「今回の仕事内容はキロス中尉には言ってはなりません。」
「承知しています。」
デネロスは軍人の顔でキリッと言い切った。
「彼は我々にとっては部外者ですから。」
きっと遊撃班でも文化保護担当部は部外者だと思っているだろう。テオは粉の分析を早くしたかったので、大学に戻ろうと思った。
「俺は午後の仕事があるから、研究室に戻る。もし何か情報があれば俺から連絡するし、そっちも教えてくれないか。」
すると少佐が彼を横目で見た。
「貴方も隠し事はなさらないでくださいね。」
え? とテオはドキリとした。ウイノカ・マレンカとの秘密の約束がバレたのかと思ったが、平静を装った。
「隠し事なんてないさ。」
彼はそれじゃ、と文化・教育省の駐車場から車で走り去った。
0 件のコメント:
コメントを投稿