マハルダ・デネロス少尉はカダイ師から植物由来の美容液を購入した。テオが店で香を嗅がせてもらうと、甘い爽やかな匂いがした。
「良い香りだが、男より先に虫が寄って来ないか?」
と余計な心配をして、デネロスを笑わせた。
車に乗り込むと、2人は文化・教育省へ向かった。車内でテオは彼女にファビオ・キロス中尉との交際はどこまで進んでいるのかと尋ねた。実はケツァル少佐とロホから頼まれていたのだ。2人共彼女の上官だから、部下の恋愛状況が気になるし、妹の様に思っているので心配なのだった。それはテオも同じだ。キロス中尉は優秀な軍人だし、誠実そうに見える。だが彼は名門の出で、ミックスで農家の娘のデネロスとの交際は親戚から何か言われるのではないか、と文化保護担当部の仲間は心配なのだった。
デネロスは肩をすくめた。
「交際と言っても、互いの空いた時間に街で会って、カフェでお茶する程度です。互いの家族に紹介し合うところまでは行ってませんし、それぞれ別の異性の話をすることもあります。」
「普通に友達ってこと?」
「現在のところは。私が監視業務に入ると数ヶ月会えませんし、彼も特殊作戦とかになれば全く会えませんからね。それに・・・」
彼女はニヤニヤした。
「彼と私が会っていると、最近、カルロが知ったらしいです。」
カルロ・ステファン大尉はキロス中尉の上官で、2人が所属する遊撃班の副指揮官だ。そして元文化保護担当部の副指揮官でもあった。ステファン大尉には実の妹がいるが、デネロスのことも妹の様に可愛がっていて、彼女を泣かせる男がいたら、まず五体満足な状態で家に帰らせたりしないだろう。
テオは興味が湧いた。
「へぇ、カルロは何か中尉に言ったのか?」
「もしマハルダが泣いていた、と言う話を耳にしたら、真っ先にお前を疑うぞ、とファビオに言ったそうです。」
中尉ではなく、ファビオと名前を呼ぶんだ、とテオは気づいた。マハルダは一応キロス中尉を上官ではなく友達レベルで見ている。テオは出来るだけ平素を装って尋ねた。
「彼は大尉に何て言ったんだろ?」
「私も訊きました。彼は平然と答えたそうですよ、意見の相違があれば喧嘩もします、でも仲直りの方法は自分が考えます、ですって。」
「それでカルロは?」
「その言葉を忘れるなよ、って言って去ったそうです。」
テオは笑ってしまった。ステファン大尉は他人の恋愛に首を突っ込みたくないのだ。彼自身恋愛には不器用なのだから。だがキロス中尉の人柄は彼もよく知っているだろう。恐らくデネロスより知っている筈だ。だから、ステファン大尉はキロス中尉を信じることにしたのだ。
「マハルダ」
とテオは呼んだ。
「君は大勢から愛されてるね。」
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