2024/09/02

第11部  石の目的      24

  テオが夕刻、帰り支度をして大学の職員用駐車場に行くと、彼の車にもたれかかっている男性がいた。テオはその体型に見覚えがあったので、「こんばんは」と声をかけた。サングラスをかけたその男性は、グラスをちょっとだけずらして彼を見た。

「こんばんは、ドクトル。私だとお分かりなのですね。」
「一応一度会った人は記憶しますから。」

 テオはその人物のそばへ行った。相手はロホの兄、ウイノカ・マレンカだ。

「分析結果を聞きに来られたのですね?」
「スィ。連絡方法を貴方に伝えるのを忘れていましたね、うっかりしていたので、少し焦りました。もし貴方が私のことを弟に話したら・・・」
「大丈夫、口外していません。」

 テオは鞄からクリアファイルを出した。ウイノカ・マレンカから預かった吐瀉物とカダイ師から買ったカロライナジャスミンの粉末の分析結果だ。

「毒物を生成した植物の産地は特定出来ませんでしたが、全く同一の成分の薬剤を製造販売している人は見つけました。」
「をを!」

 ウイノカ・マレンカがテオの想像以上に喜んで彼の方に身を近づけた。

「それは、民間で作られていたのですか? それとも特殊な立場の祈祷師とか・・・」
「民間の薬屋です。恐らく、大統領警護隊の人々はご存じだと思います。」

 テオの言葉に、彼はちょっと考え込んだ。彼が知っている薬屋を数軒思い起こそうとしているのだ。テオはあっさり答えを教えてやった。

「アケチャ族のカダイ師と呼ばれる人です。」
「ああ・・・」

 ウイノカ・マレンカは気が抜けた様な息を吐いた。

「間違いないのですね?」
「スィ、成分が見事に一致しました。カダイ師が薬を作る時に混ぜた炭の粉の成分も同じでした。」

 ウイノカ・マレンカは自分の額をピシャリと手で叩いた。

「そんな近くに・・・それで、カダイ師は、その薬を誰に売ったのか教えてくれましたか?」
「残念ながら、記憶を消されていました。」

 テオはデネロス少尉が聞き出したカダイ師の言葉をそのままウイノカ・マレンカに告げた。ロホの兄は溜め息をついた。

「確かに、一族の人間の仕業ですね。恐らく、”サンキフエラの心臓”の効果を試す為に薬を飲み物に仕込んだのでしょう。大統領府の厨房スタッフが毒を盛られたのは、その場所が石を持ち出して使うのに適当だと思われたからで、大統領を狙ったとはまだ言い難いです。」

 テオは質問した。

「石を持ち出した警備班の隊員は何か喋ったのでしょうか?」
「知りたいですか?」

 ウイノカ・マレンカが微かに口元に笑みを浮かべた。ケツァル少佐でも知ることが出来ない司令部の秘密事項を、この男は知っているのだ。テオは「スィ」と答えた。

「あの石は、元々文化保護担当部の仕事だったのです。俺は彼等に何も教えないと言う司令部の決定に納得出来ません。」

 

0 件のコメント:

第11部  石の目的      30

  「神官と言うのは、どうすればなれるんだい?」  テオが質問すると、ケツァル少佐とステファン大尉は顔を見合わせた。2人ともよく知らないんじゃないか、とテオはふと思った。 ”ヴェルデ・シエロ”社会は秘密主義が多い。一族の中でも知らないことの方が多いようだ。ましてや、この姉弟はそれ...