2024/09/03

第11部  石の目的      25

 「つまり、文化保護担当部にも伝えると言う前提で、話してくれと言うことですね。」
「誰から聞いたとは言いません。」

 テオの言葉にウイノカ・マレンカはちょっと黙り込んだ。テオに語り、それが文化保護担当部に伝わることによって起きるかも知れないリスクを想像しているのだろう、とテオは予想した。
 1分後、ウイノカ・マレンカがふーっと息を吐いた。

「わかりました。弟達の口の固さは認めます。だが、最初はケツァルだけに話してください。」

 ケツァル少佐なら部下に話すか話さない方が良いか正しく判断出来るだろうと言うことだ。テオは「約束します」と答えた。ウイノカ・マレンカは頷いた。彼は駐車場の中を見回してから、言った。

「”サンキフエラの心臓”を持ち出した警備隊員は、石をアスマ神官から渡されたと言いました。」
「アスマって・・・少佐が石を預けた神官ですよ。」
「スィ。少佐から石を預けられた時、アスマ神官は宝物庫に石を納めると言ったのですが、もし本当にそうしたのなら、我々神殿近衛兵の立ち合いの下で宝物庫を開いた筈です。しかし私の同僚も私も誰もそんな指図を受けていないし、アスマ神官と宝物庫に行ってもいません。」
「つまり、その神官は石を宝物庫に納めなかった・・・。」
「個人的に持っていたと思えます。恐らく他の神官は”サンキフエラの心臓”の報告も受けていないのではないか、と我々は現在考えています。」
「神官達はまだ戻らないのですか?」
「まだ戻りません。こちらから連絡を取ることは許されていません。」
「大統領府の厨房スタッフが毒を飲まされたのは、神官が出かけた後ですか?」
「スィ。ですから、毒を仕込んだのは警備隊員ではないかと疑われたのですが、彼はただ石で病人を手当てしただけでした。アスマ神官から石を渡された時、使い方を教えられ、『必ず近日中に必要になる』と告げられたそうです。」

 テオは考え込んだ。大昔なら、それでアスマ神官は未来を予言して的中させた、と尊敬を集めたかも知れないが、現代人は彼が何らかのトリックで事件を引き起こしたと考えるのが妥当だろう。そしてアスマ神官もその程度の予想はついた筈だ。

「それで、毒を仕込んだ人間はまだわからないのですか?」
「神官が戻って来ないことには、調べようがないのです。」

 ウイノカ・マレンカは溜め息をついた。

「毒が入っていたクラマトの瓶は中古の使い回しでした。」

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第11部  石の目的      30

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