「遠い祖先にグラダがいるかどうかなんて、D N A分析でもしなけりゃ、わからないだろう。」
とテオは断じた。
「それに純血種のブーカと名乗っていても、実際はグラダの因子を持っていたかも知れない。」
ケツァル少佐がステファン大尉に尋ねた。
「アイオラ少尉はグラダの子孫を見分ける方法を知っているのですか?」
「知るわけありません。」
とステファン大尉がぶっきらぼうに答えた。
「彼は私がグラダだと知っていますが、彼と私の違いなんて気の大きさの違いでしかわからないんです。それはどの隊員も一緒ですし、私も同じです。これが出来ればグラダだ、なんて決定要因なんて誰も知らないのです。」
「私も知りません。」
と少佐は困った表情でテオを見た。
「時々長老達から、グラダだからお前はこれが出来た、わかった、とか言われますが、それは結果論で、最初から私に何か試そうとかさせようと言うものではありません。他の部族の人に出来なかったことが出来たからグラダだ、と評されるのです。」
「その少尉が探す相手は5歳未満の子供だろ?」
とテオ。
「子供に危険な試験を受けさせられないし、試験対象の子供が何人いるかもわからない。サハラ砂漠で砂粒に見えるガラス片を探せ、て言われているみたいだ。」
「ですから、ルークは私にグラダを見分ける方法はないのかと訊いて来たのです。」
ステファン大尉はアイオラ少尉の助けになることはないのか、と探しているのだ。しかしケツァル少佐は別の疑問を考えていた。
「何故今頃になってグラダの血を神官に迎えようと言うのでしょう。ミックスの子供は大神官になる素質がないのに。」
「大神官はグラダだけだったね?」
「少なくとも半分グラダの血が必要です。」
再びテオはフィデル・ケサダ教授の息子を脳裏に浮かべた。教授はまだ息子を外にお披露目していないが、あの赤ん坊は確実に半分グラダだ。残りの半分はブーカより力が弱いマスケゴだが、グラダの血がカバーしてくれるだろう。しかし、ケサダ教授夫妻は息子を大神官などにしたくない筈だ。
テオはケサダ家の秘密を頭から払拭するために、ステファン大尉を揶揄った。
「神官は君が結婚して男の子を儲けることを考えていないんだな?」
ステファン大尉がムッとした。
「私は自分の子を神官にしたくありません。」
神官と言う職は、ケツァル少佐にもステファン大尉にも因縁の地位だ。2人の父親シュカワラスキ・マナは大神官になるべく教育され、結局それを嫌って逃亡し、一族を敵に回してたった一人で戦う羽目になったのだ。彼に掛けられた殺人容疑はその後冤罪だと判明したが、一族を混乱させ、関連する出来事で死者を出した責任は重く、少佐と大尉の姉弟にもその影響はまだ残っている。純血のグラダでもケツァル少佐は今より上の階級に昇ることが難しいし、ステファン大尉も他の隊員より出世に数倍の困難と努力が必要だ。
「神官の意図がどこにあるのか、知りたいね。」
とテオは呟き、少佐と大尉も頷いた。
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