カルロ・ステファン大尉は話を続けた。
「ルーク・アイオラ少尉は半日ほど神殿にいて、戻って来ました。彼は戻ったことをセプルベダ少佐に報告しましたが、神殿に呼ばれた要件は口止めされているとかで語りませんでした。」
「でも、君には言ったのか?」
とテオはつい口を挟んでしまった。ケツァル少佐にちょっと睨まれたが、性分だから仕方がない。ステファン大尉は頷いた。
「ルークは”心話”では伝えられないと言って、言葉で私に相談して来ました。理由は、私が彼と同じミックスだからです。」
大尉はテーブルに置かれたグラスから水を一口飲んだ。
「彼は神殿から・・・と言うより、ある神官から命令を受けました。5歳未満のグラダの血統を持つ男児を探し出せ、と言うものです。」
その言葉に、少佐とテオは思わず顔を見合わせた。グラダ族は古代に絶滅した。現在生きているグラダ族は、他部族との混血の子孫達が近親婚を繰り返して人為的に生み出した純血種とそれに近い人々で、テオと少佐が知る限り全部で11人だけだ。純血種は、ケツァル少佐と表向きはマスケゴ族を名乗っているフィデル・ケサダ考古学教授の2人だけだし、ステファン大尉と妹のグラシエラ・ステファンは4分の3グラダ(推定)、カルロとグラシエラの母親カタリナは4分の1ほどだ。アンドレ・ギャラガ少尉はさまざまな部族と人種が混ざり合って記録にない薄いグラダの血が能力を発現させた奇跡の存在だし、ケサダ教授の子供達5人は父親同様表向きはマスケゴ族の、マスケゴ族とのミックスだ。ただ・・・
「ケサダ教授の息子はまだ1歳だよな・・・」
テオの言葉に、ステファンが不思議そうな顔をした。
「ケサダ教授の息子?」
ケツァル少佐は思いっきりテオの足をテーブルの下で蹴飛ばした。ケサダ教授はグラダ族であることを、ステファン大尉は知らないのだ。姉のケツァル少佐は、出自を秘密にしたい教授の意向を汲み取って、彼女の弟妹には教えていなかった。
ステファン大尉は姉と親友が何か隠していると感じたが、取り敢えずそれは傍に置いておくことに決めた。
「ルークが探せと命じられたグラダの子孫と言うのは、主にブーカ族の中に混ざっている遠い祖先にグラダを持つ子供と言う意味です。」
「それはつまり・・・」
ケツァル少佐が視線を天井に向けた。
「新しい神官にする子供を探せ、と言う意味ですね?」
「スィ。しかし、今迄神官にする子供は、各部族の旧家から選出していました。その部族の純血種と言う意味です。それが、何故今回に限ってグラダなのか、ルークは疑問に思っているのです。純血種のブーカ族ならいくらでもいるのに・・・」
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