「あの石、”サンキフエラの心臓”は”ヴェルデ・シエロ”には効かないんだよな? だけど、神官はそれの効能を大統領府厨房スタッフで試した。もしかして、”シエロ”には効かないって知らないんじゃないのか?」
「神官に知らないことがありますか?」
と質問してから、ステファン大尉は怪訝な顔をしてテオを見た。
「”サンキフエラの心臓”って何です?」
それでケツァル少佐が弟の目を見て”心話”で説明した。一瞬で伝わった情報に、大尉が目を丸くした。
「そんな石が実在するのですか! しかも、あのフレータ少尉がその石の本当の使い方を知っているとは・・・」
「大統領府厨房での事件は知っているだろ?」
とテオが念を押すと、大尉は肩をすくめた。
「噂は聞きましたが、私の部署では直接関係ない事案だったので、誰も関心を持ちませんでした。」
「呑気だなぁ・・・」
テオは己に関係ないことに首を突っ込まないと言うセルバ人気質に呆れた。まぁ、アメリカ人だって中国人だって、ロシア人だって、世界中同じだろうけど。
「神官の誰かが体調を崩して、偶然手に入った”サンキフエラの心臓”を試してみたが効果がなかった、本当の”サンキフエラの心臓”なのか確認するために厨房スタッフに軽い毒を盛って実験した。その一方で新しい神官を養成する為に、適任の子供を探すことにした・・・」
とステファン大尉が己の推理を語った。テオもその考えを否定出来なかった。
「”サンキフエラの心臓”が”ヴェルデ・シエロ”にも効けば問題なかったのかも知れない。それにしても、どうして今頃グラダの子孫を探すんだ?」
するとケツァル少佐は急に険しい表情になった。
「もしかすると、”名を秘めた女性”はグラダの血を引く男の子の誕生を察知したのかも知れません。」
「えっ!」
テオは驚き、ステファン大尉はキョトンとして彼女を見た。少佐が続けた。
「”名を秘めた女性”はその子がどこに生まれたのか分かっています。でも親の名前を神官達に教えたりしません。彼女が知っているのは、親の真の名前で俗世の名前ではないからです。だから神官達は、グラダの血を引く子供が生まれたと彼女に教えられても、その子がどこにいるのか分からないのです。」
ステファン大尉は4分の3グラダの男だ。しかし彼は残りの4分の1の中に白人の血が混ざり、他の種族の血も入っている。だから当時のママコナに無視された。それに彼の父親が一族を敵に回して戦っている最中だった。謀反人の子として生まれたのだから、大神官の候補にならなかった。
「その子は、グラダの血を引く純血の”ヴェルデ・シエロ”なのですね?」
と姉に言った。テオは黙っていた。どの子か彼は知っている。しかし、それを公にすれば、その子の父親の秘密が暴かれてしまう。そしてその父親を守ってきた家族にも累が及ぶ。
「グラダの血を引いていなくても、立派な神官になれるだろう?」
とテオは言った。
「今まで、そうだったんだから。」
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