2024/09/25

第11部  石の目的      32

 グラダはグラダを見分ける。

 これは、ステファン大尉が大統領警護隊に入隊して間もない頃に、ケツァル少佐が彼の存在に気づいたことに対する上官の言葉だった。少佐は特に特別なことを彼から感じ取った訳ではない。ただ「気になった」のだった。だから、ステファン大尉その人から、グラダを祖先に持つ人の見分け方を訊かれても答えられなかった。だから、大尉は結局手ぶらで帰ってしまった。
 2人きりになると、テオは少佐に尋ねた。

「ケサダ教授の息子は神殿から狙われているのだろうか?」
「狙われると言う言葉は少し過激ですが・・・」

 少佐はグラスにブランデーを注いで、テオに一つ手渡した。そして彼女はソファに座ったが、彼は立ったままだった。

「”名を秘めた女”はあの赤ん坊の誕生を感じ取ったのでしょう。大神官の能力を持った男性を手元に置きたいと彼女が思うのは無理もありません。彼女を守り、支える重要な役割ですから。」
「だが、親子ほどの年齢差だね。」
「スィ。でもその方が良いのです。今のママコナが代替わりした時に大神官がまだ若ければ、新しいママコナを導けます。」
「だが、ケサダ教授は息子を神殿に渡したくないだろう。」
「当然でしょう。一生を神殿に縛り付けられるなんて、現代人なら誰でも御免ですよ。」
「だが、ママコナは諦めないだろうな。」
「5年間、見つからなければ大丈夫です。」

 少佐は琥珀色の液体を口に含んだ。テオはまだグラスの中の液体を手の中でくるくる回すだけだった。

「ムリリョ博士にこの件を伝えるべきだろうか?」
「伝えてどうなります?」

 少佐が冷ややかに言った。

「何も起こりませんよ。そっとしておくのが一番です。それより心配なのは・・・」

 彼女はテオを見上げた。

「フィデルが余計な能力を披露しないか、それだけが気がかりです。あの方はクールですが、時々やんちゃな面も見せます。」
「恐らく、そのやんちゃな面が彼の本当の性格なんじゃないかな。普段は身の安全のために大人しくしているだけなんだ。」

 テオは、怒らせると首都を一人で壊滅させられる、と言われる能力を持った男を思い、少し憂鬱になった。

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